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「三本の矢」の成果は? 2年間の是非を問う

今回の選挙の経緯と争点であるアベノミクスについて

星浩
TBSスペシャルコメンテーター
情報・テキスト
衆議院解散後、記者会見を行う安倍総理(平成26年11月21日)
出典:首相官邸ホームページ(http://www.kantei.go.jp/jp/96_abe/actions/201411/21kaiken.html)より
衆議院選挙が始まった。今回の選挙の裏側には何があるのか。最大の争点・アベノミクスは果たしてどうなっているのか。星浩氏が語る総選挙・第1回目。
時間:09:48
収録日:2014/11/20
追加日:2014/11/21
カテゴリー:
≪全文≫

●現時点での解散が長期政権を狙うラストチャンス


 こんにちは。朝日新聞社の星浩でございます。衆議院総選挙がいよいよ始まりました。今回の選挙について、何回かに分けてお話しいたします。1回目は、この選挙の意味について考えてみたいと思います。

 今回の選挙は、安倍晋三総理が突然提起しました。法律上は2015年10月、8パーセントから10パーセントへ消費増税をすることが決まっていますが、その法律には景気条項がありまして、景気動向によっては延期が可能です。安倍総理は今回、消費増税を18カ月延期し、2017年の4月からにするという判断に至りました。そのことについて国民の信を問うという名目で衆議院の解散に踏み切り、総選挙を行う宣言をして解散劇がスタートしたわけです。

 振り返りますと、安倍総理はどうやら秋口から解散のタイミングを狙っていたようです。9月に内閣を改造して、女性閣僚を5人入れ、幹事長には谷垣禎一さんを起用するといった比較的斬新な布陣にしましたが、思いがけず小渕優子経産大臣と松島みどり法務大臣に政治と金をめぐるスキャンダルが噴出し、2人の女性閣僚が辞任することになりました。それによって政権の求心力が一気に低下しました。

 そこで安倍総理の頭の中に何が出来したかと言いますと、来年の政治日程は政権に厳しいことばかりだということです。年が明けると、まず鹿児島・川内原発の再稼働を認めることになります。さらに4月には統一地方選があります。自民党の議員は、統一地方選で必死に活動した分、その後は国政選挙のために一生懸命動く熱意が冷めるため、統一地方選の後は自民党があまり有利でないというのが、永田町のジンクスなのです。

 加えて、景気もなかなか浮上してきません。それから、春から夏にかけては集団的自衛権の関連法案を国会に提出します。来年4月以降の通常国会で、自衛隊法改正案、周辺事態法の見直しなどによって、自衛隊が海外で武力行使できる道を開くのです。しかし、そこでは相当もめることになりそうです。このようなことも踏まえると、来年の春以降は厳しい政局が続き、政権の求心力がさらに低下する可能性があります。

 安倍総理は、来年の秋に自民党の総裁選を控えています。この総裁選で何としても再選を勝ち取って、残り3年の任期を得ようという狙いがあります。そのためには、この時点での解散が長期政権を狙うラストチャンスかもしれないという判断がありました。そこに消費増税を1年半見送るという判断が重なって、民意を問うために打って出てきたわけです。

 しかし、冷静に考えますと、消費増税法案にはもともと景気条項があるわけですから、消費増税を先送りする旨の法案を別途つくって、自民党内を説得し、野党の協力を求めるのが本来の政治手法だと私には思えます。今回の7月から9月期のGDPの伸びが極めて悪く、年率換算マイナス1.6パーセントで景気低迷が如実に表れていますから、それが景気条項に沿った行動でしょう。しかし、安倍総理は、その道を選ばず、いきなり民意を問うてきました。その判断が、今度の総選挙で問われることになります。


●アベノミクスの是非が最大の争点になる


 国権の最高機関の立法府である国会との権力バランスという意味で、総理大臣には大権として解散権が保証されています。安倍総理はそれを行使したので、これからは選挙戦に入ります。選挙戦ではもちろん解散の経過が一つの争点になりますが、やはり政策課題も問われるでしょう。とりわけ安倍総理が2年間進めてきたアベノミクスの是非が最大の争点になると思います。

 アベノミクスの第一の矢「金融政策」については、金融緩和が続き、円安株高がどんどん進行しました。最近は日本銀行の黒田東彦総裁による金融緩和の第2弾も実施され、一層の円安株高基調が続いています。円安によって、輸出企業には恩恵がもたらされました。株高によって、株を持っている人には恩恵がもたらされました。しかし、株を持っている人は日本人の8分の1、12パーセント程度と言われています。他方、株を持っていない人や、地方で車のガソリンをたくさん使う人などには円安が重くのしかかっており、金融緩和は必ずしもプラスの面だけではないことがこの2年で分かってきました。

 2本目の矢「財政出動」は、国が借金を積み重ねて多額の公共事業予算を追加し、公共事業を行うことで景気のテコ入れをするということでしたが、地方にはいまだに恩恵が行き届いていません。中央、とりわけ東京と地方との格差、富裕層と低所得者層との格差はますます開いてきています。

 3本目の矢「成長戦略」は、一向に成果が出ていません。構造改革を伴う成長戦略には相当の痛みが伴います。多くの人々の転職や廃業によって新しい雇用を生み出すことが...
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