●安倍総理の一強多弱という構図は変わるのか
1回目は、総選挙に至る経過と、アベノミクスという争点の構図についてお話をしました。今回の総選挙は、安倍総理が消費増税先送りを理由に提起した解散によって始まったのでした。2回目は、この選挙戦の構図についてお話しします。それから、選挙の意味するもの、有権者に求められる行動などについてもお話ししたいと思います。
今回の選挙戦では、安倍総理が解散という攻めに打って出て、消費増税の延期の是非を問いかけたことに対して、野党側が批判を浴びせています。特に安倍政権が掲げるアベノミクスの成果が乏しいため、民主党を中心に、それに代わる経済政策を提起しようとしています。
前回2012年の総選挙で、自民党は民主党から政権を奪還して、その後自民党は公明党と共に、衆議院で300議席を超える巨大勢力で政権運営を進めてきました。安倍総理は自民党内でも向かうところ敵なしで、この2年間は、安倍総理の一強多弱という構図で推移してきたわけです。この状況に果たして誰かが待ったをかけるのか。それとも安倍総理がさらに一強多弱のまま政策を推進していくのか。これが、今回の選挙の基本的な対立構図です。
●自民党と民主党が争う選挙に戻りつつある
小選挙区制の選挙ですので、基本的には第1党と第2党が競い合う構図ですが、前回の総選挙では、当時の日本維新の会というグループが自民党、民主党に代わる第3勢力をつくりましょうと提起しました。小選挙区でAかBかではなく、Cという選択肢もあるではないかと主張して、相当数の議席を獲得しました。衆議院比例区では、自民党の1600万票に対して、日本維新の会は1200万票も取り、民主党の900万票を上回りました。
しかし、この2年間の維新の会の動きを見ますと、次世代の党が分裂し、党内でも内紛が絶えず、提起した政策もなかなか動き出していません。日本維新の会は、みんなの党から分裂した江田憲司さんたちのグループと「維新の党」という新しい勢力をつくって今度の選挙に臨みますが、2年前に提起した自民党と民主党に対する第3勢力をつくることは、明確に申し上げて達成できませんでした。彼らの存在は、果たしてこの選挙制度で第3勢力が成り立ち得るのかという疑問を投げかけていると思います。
特にみんなの党が解党したこともあり、基本的に今回は第3勢力に非常に逆風が吹いている選挙です。私の見る限り、基本構図としては、やはり政権選択に近い自民党と民主党が争う選挙に戻りつつあります。
●民主党がどこまで自民党に立ち向かえるか
自民党は前回大勝して、ほとんどの選挙区で候補者をそろえています。自民党と連立を組む公明党も、選挙対応をきちんと整えています。与党側は相当の体制で選挙に臨んでいます。
一方の民主党は、前回惨敗して、まだ立ち直りきれていない状況で解散に打って出られましたから、準備不足は否めません。民主党がどこまで候補者をそろえ、維新の党などとの選挙協力も進めて自民党に立ち向かえるか。これが選挙戦の見どころだと思います。
もちろん、消費増税にどう臨むのか、集団的自衛権にどう対応するのかといった政策も必要です。民主党からすると、体制をきちんと整えつつ、政策も打ち出していかなくてはならない非常に厳しい選挙になっています。しかし、ここで野党側が一強多弱の政治を許すようだと、20年間続いてきた政治改革が滞ってしまいます。
自民党に代わって政権を担い得る勢力をつくるために、これまで小選挙区制での総選挙が6回行われ、今回7回目を迎えます。自民党とそれに対抗できる野党勢力が、拮抗して緊張感のある政治を行おう。片方が失敗すれば、もう片方が取って代わろう。このような精神の下に改革が進められてきました。実際2009年には、当時の自民党・麻生政権が混迷を深める中で総選挙に突入して、自民党は惨敗し、民主党政権ができました。
しかし、その民主党政権の政権運営が非常に未熟だったため、3年3カ月で幕を閉じ、再び自民党に取って代わられたのです。これもまた小選挙区の非常に大きな効果です。
今回の選挙にも、自民党・安倍政権への審判という側面があり、非常に意味があります。とりわけ安倍さんの進めてきたアベノミクスに対して、民主党を中心とした野党がどのような政策体系をつくるのか。例えば、社会保障問題については、社会保障の充実によって経済を下支えし、成長を進めていくのが民主党の基本的なスタンスです。それをどのように肉付けして選挙で訴えるのか、ぜひ注目していきたいと思っています。
●中選挙区時代には政権選択は難しかった
第1回でも申し上げたように、選挙が終わると、来年は原発の再稼働や集団的自衛権の法案審議なども控えてい...