●「スルガ銀行シェアハウス事件」とはどんな事件だったのか
皆さん、こんにちは。弁護士の河合弘之です。
今日はたぶん皆さん、関心があるだろうと思う不動産投資について、「不動産投資の罠」ということでお話しします。
その話のはじめに、私が現在も手掛けている「スルガ銀行シェアハウス事件」、別名「スルガ銀行かぼちゃの馬車事件」のお話をしたいと思います。
今画面に出ているように(上のスライド参照)、シェアハウスとは寄宿舎みたいなアパートです。個室は10平米(平方メートル)以下で、10平米というと6畳一間です。シャワーやトイレ、キッチンなどはその部屋には無く、共有部分にあって、みんなで使うシステムです。
そういうシェアハウスを、スマートデイズという悪質な不動産業者が開発して、その商品をサラリーマンにたくさん売りつけました。悪質であることはこの後の説明ではっきりします。
この事件の主犯はスマートデイズという悪質不動産業者で、もうすでに破産して消滅してしまいました。スマートデイズは消費者、主にサラリーマンの方々に売りつけました。
普通のサラリーマンなので、年収がせいぜい600~700万円ぐらいです。そういう方は、だいたい子どもが2人か3人いて、奥さんがいて、生活にも関わるので可処分所得も少なくて、預金も20~40万円ぐらいしかない方も結構多いのです。シェアハウスは平均すると1億5000万円ですが、そういう人には高い物件を買わせることができない、すなわち、融資を得ることができません。そこでどうしたかというと、そのサラリーマンの人が持ってきた通帳を銀行に提出しなければいけないのですが、その通帳を水増しして、偽造してしまいます。
これは現実の例で、30万円しか預金残高がないのに、それを3030万円あるかのように通帳を偽造して、そのコピーをスルガ銀行に出して、スルガ銀行から融資を引き出しました。
さらにどういうことをやったかというと、家賃がどれだけ入るか、管理費がどれだけかかるか、また銀行の元利返済はどれだけかなどを記載したものを「レントロール」というのですが、そういうものも偽造、変造しました。
例えば家賃5万円しか取れないところを、7万円あるいは8万円取れるように見せたインチキな収支計画を作ります。それをスルガ銀行に出して、高額な融資を引き出して、高額な物件を売りつけました。どれくらい高額な物件を売りつけたかというと、実際の正しい価格の2倍の価格の物件を売りつけました。分かりやすく言うと、7500万円しか価値のないものを、1億5000万円で売りつけるという、法外でめちゃくちゃなことをしました。
そのときに通帳やレントロールを偽造したのは悪質不動産業者ですが、スルガ銀行の担当者はそれを分かっていたのにわざと見過ごしました。預金通帳も原本を見ればすぐに見破れるのに、コピーで済ましました。こういう非常に重大な手抜きをし、中盤以降は全部分かっていたのに、わざと見過ごしました。
もっと後半になると、例えば預金が20万円しかない人の預金通帳を1020万円あるように偽造します。銀行側の担当者が、「それではまだ足りないのであと1000万円上乗せしてくれ」と不動産業者に言って、不動産業者が「はい。分かりました。夕方5時までにそれを届けます」というやり取りが、実際にメールに残っていました。ある意味でばかばかしい酷い不正行為をしながら、スルガ銀行はどんどん貸し付けをしました。
なぜみんながそんなに引っかかったのかというと、不動産業者であるスマートデイズは、「うちがサブリースで一括買い上げするから大丈夫ですよ。毎月の元利の返済は50万円ですが、毎月家賃が60万円上がってサブリース料で払うので、契約して賃貸が始まったとたんに、あなたの手元に10万円残りますよ」という、うまい話をしたからです。そうしてサラリーマンの人たちは引っかかりました。それがスルガ銀行シェアハウス事件のざっとした全貌です。
●白兵戦、デモ、株主総会での戦いの末、借金1500億円を完全救済
私はこの被害者の人たち1000人を率いて、約2年半、熾烈に戦いました。2020年3月にどういった成果を得たかと言うと、私の依頼者である1000人全員の借金が全部チャラになりました。借金の総額は約1500億円です。私だけが弁護士だったわけではなく、私の依頼者の人たちと私の友人、そして弁護団40人と組んで、私と山口広さんという方が弁護団長をやり、そうした成果を上げました。シェアハウス物件はスルガ銀行に返して、一人平均1億5000万円の借金が全部チャラになったことは、史上空前の解決です。
なぜそんなうまい話が成...
(大下英治著、さくら舎)