●中小企業の65パーセントに後継者がいない
分林 私は、1991年4月に日本M&Aセンターをつくりました。その前から、全国の税理士や公認会計士、約550人と事業承継の研究会をつくっていました。そこで全国の会計事務所から「分林さん、後継者のいない会社が顧問先に増えてきました」という話を聞くようになり、この会社を設立したのです。全国の約150の会計事務所が会員となって出資して下さり、さらにオリックスの宮内義彦さんや損保会社などの大企業も出資して下さったこともあってビジネスは早くから軌道に乗り、現在24期目です。おかげさまで、2期目から配当を出すことができ、その後、23期連続黒字。1期目の半年を除いて、赤字は出したことがありません。
―― それは素晴らしいことです。
分林 当社は、初めに会計事務所、次に全国の地方銀行や信用金庫と提携を進めました。これらの企業が、私たちと中小企業との接点です。現在、全国で約600近くの会計事務所、約300の地方銀行・信用金庫が当社のネットワークになって下さっています。日本の主な会計事務所・地方銀行・信用金庫のほとんどと提携していると言ってよいでしょう。
今、中小企業にとって最も大きな問題は、後継者問題です。後継者のいない会社がものすごく増えてきているのです。25年前の出生率は、だいたい1.4人でした。そのうち男の子が生まれる確率を半分としますと、0.7人です。つまり、中小企業の約3割にもともと後継者候補がいない計算になります。さらに、0.7人のうち、半分が継いだとしても0.35人。つまり、全国の中小企業の約65パーセント、3社のうち2社に後継者がいないという状況なのです。そのような背景のもと、現在は一日に20件くらい私たちのところに相談が来ています。
―― 大変な数ですね。
分林 今月から来月にかけても、東京を中心に、札幌から九州まで全国8会場でセミナーを行いますが、例えば東京では、申し込みがすでに約700件も来ています。この一連のセミナーだけで、全国数千社の方々が来訪する予定です。一般企業だけでなく、例えば多くの病院も後継者不足に悩んでいますから、先月は病院の方々を対象にしたセミナーも行いました。
―― 病院も後継者がいないのですか。
分林 いないのです。
●現在は、中堅中小企業も集約化が進んできている
分林 それから、今一番ホットなのは調剤薬局です。もちろん後継者問題もありますが、調剤薬局の世界は医療費圧縮などの影響により、5店舗や10店舗くらいのチェーンではもう安定的に経営を維持できない時代が来ています。そのため、私たちは今年の1月から3月だけで8件の調剤薬局のM&A調印式を実施しました。月に数件のペースです。このようにして、私たちが主に後継者問題を理由にお手伝いしてきたM&A案件が、売買を合わせると累計で約2000件になります。現在も、週に平均3件の調印式をしていると思います。
―― まさに、御社が社会的共通基盤となっているのですね。
分林 そうですね。後継者問題だけでなく、今後は少子化の時代ですから、マーケットそのものも小さくなっていきます。さらにグローバル化の影響もあって、大企業は完全に集約化が始まっている状況です。例えば、すでに都市銀行は実質3行と言って過言ではありませんし、大手百貨店は4社になり、コンビニエンスストアも3社でシェアの90数パーセントを占めています。同様に、現在は中堅中小企業も集約化が進んできています。一方で、中堅中小企業が1社でグローバル展開するのは難しいですから、大手企業グループの傘下に入ってグローバル展開を進めたいという経営者も増えてきています。
●「見切り千両」のほうが得をするケースが多い
―― 後継者がいないことと、ある程度の企業規模がないと経営が安定しないことと、両方ですね。
分林 そうです。やはり将来不安の問題があります。今はもう創業者ですら大変な時代ですから、安易に息子さんが継ぐ環境ではないのではないかと思います。もう完全に環境が変わりましたから。これからの方は本当に大変だと思います。
―― 分林さんがよくお話しされているように、ずば抜けて優秀ではない限り、後を継がせるのはかわいそうということでしょうか。
分林 例えば、私の父(能楽師)の後援会長も、非常に真面目な4代目の社長でした。その会社には300人ほどの社員がいたのですが、頑張りすぎたために結局倒産し、個人破産の目に遭ってしまいました。
―― 頑張りすぎたために、ですか。
分林 そうです。昔から「見切り千両」と言いますが、粘りすぎないほうが良いのです。私の妻の実家はダンボール会社で、義弟が3代目として継いでいましたが、資産のあるうちに止めさせました。義弟は55歳くらいでしたが、幸いアパートなどの不動産もありましたから、赤字がなくなりました。そ...