テンミニッツTV|有識者による1話10分のオンライン講義
ログイン 会員登録 テンミニッツTVとは
テンミニッツTVは、有識者の生の声を10分間で伝える新しい教養動画メディアです。
すでにご登録済みの方は
このエントリーをはてなブックマークに追加

「もうからなければ駄目」という信念で数々の改革を断行

赤字は罪悪である―経営者としての信念と覚悟

小林喜光
東京電力ホールディングス株式会社 取締役会長
情報・テキスト
赤字は罪悪である。三菱ケミカルホールディングス社長として、いくつもの重大な経営改革を推進してきた小林喜光氏の方針は明確そのものだ。このぶれない方針を軸に行ってきた企業経営の核心に迫る言葉の数々を紹介する。
時間:07:46
収録日:2014/09/01
追加日:2015/04/01
≪全文≫

●覚悟をもっての再構築


―― 日本のような農耕民族型の湿っぽい組織を転換するときのエネルギーは、大変なものがありますね。デュポンのように、「手がけるのは3分野だけ」というような組織改革は、日本では非常にやりにくいですよね。

小林 やりにくいです。

―― その中でずっとやってこられたのはすごいですね。

小林 いや、いや。今でもいろいろと言う人は多いですからね。要は、儲けることよりも、「まず会社にいる存在そのものを大切にしてください」というようなことを言うわけではないですか。「俺を殺す気か。俺は今までの歴史をこの会社を残したい」という老人もいれば、若い人は若い人で、「この会社に入って、少しうまくいかないからといって、私もすぐクビですか?」と、強烈な目が訴えてきますからね。

 そういう中で、「いや、違う。儲からなければ駄目だ」という形でやるのは、それなりの覚悟がいりますね。


●グローバル社会を戦い抜いていくための生命科学研究所クローズ


 今から振り返れば、2007年に僕が社長になって、2008年3月に「三菱化学生命科学研究所をクローズする」と言ったことがあったのです。この研究所は、もう38年ぐらいやってきて当社の象徴的な研究所でした。大学教授を100人以上、150人は出していましたし、当時は毎年30~40億を使ってやってきたのです。

 ですが、累積すれば1000億以上使って、はっきり言ってアプリケーションは何も出きていなかったのです。ステータスというか、いわゆる民間企業のベーシックリサーチをやるという意味で、40年ほど前から「ライフサイエンス」という言葉を掲げて、それを非常に精神的なバックグラウンドのようなものにしていました。

 しかし、理化学研究所なり産業技術総合研究所が毎年500億から1000億のお金を使ってやっており、世界では5000億ぐらい使ったライフサイエンスの研究所もある中で、やはりこれはどう見ても中途半端でした。この慈善事業のような、相撲取りを後援するタニマチのような世界をいつまでもやるのか? と考えました。「立派に儲かっているならいいけれども、大して儲かっていないのに」というような思いが強くなってきたのです。

 社員として200数十名の研究者がいたのですが、研究所の講堂に集めて「これでクローズする」と言ったときは、やはり怨嗟(えんさ)の目で見られましたね。

 「別に研究所を辞めても大学の教授になればいい」というような力のある人はあまり強く抵抗はしなかったのですが、やはり一番抵抗されたのは、特に50代後半の女性の研究補助者なのです。自分の人生設計をして、60歳まできて一定程度の退職金をもらって、退職後も残って、というストーリーを描いていた人生が、突然なくなるわけではないですか。そういう人は、ユニオン、組合などといろいろ一緒に相談しながら、本社に来てシュプレヒコールをあげましたからね。最終的に和解はしていますけれども。

 日本の場合は、このようなことも覚悟しないと改革はできませんね。

―― それはやはり相当、自己否定の哲学や他者否定の哲学など、自分の中に生き方や、何か先の展望、強いものを持っていないとできないことですよね。

小林 やらない方が楽ですものね。やらないで2、3年して社長を辞めればいい。こんな楽なことはないということです。でも、やはり会社の先行きを考えたら、そのようなのんきなことをやっている時代ではない。グローバルな環境の中で、戦いはより先鋭的に厳しくなるわけですから。


●理科系・研究者出身であるゆえに可能だった決断


―― そうですね。理研で500億から1000億、海外の研究所では5000億くらい使ってやっている。こちらは30~40億だが、40年やったら1000億を超えてしまうという規模でやっていて、それをバサッと切れるのが、小林社長の小林社長たるゆえんですね。

小林 いえ、いえ。僕も理科系でしたから。僕は、文科系の社長にはおそらくできないと思ったのです。ですから、僕のような理科系の社長の間にやるしかないと決断しました。逆に文科系だと、「あいつは何なのだ? 分かっていない」と言われるのがオチではないですか。「僕は理科系で、この世界のことは分かっている。しかし、つぶすのだ」ということですね。

―― それはもう、すごい違いですね。

小林 一応、研究者が僕のバックグラウンドであったからこそ、やめやすかったと思うのです。

 また、石油化学事業の方でも3000億ぐらいの規模で、石油化学や肥料、農薬の事業も、いろいろとやめたのです。

―― あれもすごかったですね。

小林 僕は石油化学の触媒研究で入社しているのです。ですから、触媒という研究はしていたのだけれども、工場の経験は一度も...
テキスト全文を読む
(1カ月無料で登録)
会員登録すると資料をご覧いただくことができます。