●熱海会談の成功と「適正経営」への道
結論として、(熱海会談は)非常に成功いたしまして、危機を乗り切るわけです。松下幸之助さんは、あたかも大佛次郎の小説『鞍馬天狗』のように活躍したわけです。「財界の鞍馬天狗」というと、日本興業銀行の中山素平さんになりますが、危機があるときに突然現れて、解決すると、すうっと消えていく。幸之助さんの場合も、会長職に退いていたのが、鞍馬天狗のように出てきて、1年間ずっといて、また消えた。その後には非常に大きな緊張感と「やろう」という風土を作り出していった、というサクセス・ストーリーになるわけです。
そういう中で私が学んだことは何か。一つ目には、なぜそんな危機が生まれたかという点において、「トップの油断」があったことが最大の問題だと思います。もう一つは、現場の責任者が(不都合を)隠したということです。そういう体質が松下の中に生まれていたことが、この危機を招いた最大の原因だと思います。
どこの会社でもそうですが、表面的な数字は非常によかったわけです。実際にはじわじわと悪化していたのですが、表面の数字がいいものだから、トップはいいと思い込んでいる。危ない情報は上がってこなかった。一方、現場はその危機を隠した。
これは、最近の会社でも同じようなことが行われています。それを幸之助さんが見抜いて解決していくわけです。
一番の原因は、やはり「売上至上主義」といいましょうか、とにかく売上を追求していくこと。「売れ、売れ」ということがその原因を作っていくわけです。このへんは「適正経営」ということを考えたときに、どこが適正なのかということを考えながら経営をしていくということが極めて大切ではないかと思います。
●熱海会談を分析して感じた「3+7の物語」
それから二つ目に、相談役から何を学んだかというと、「3+(プラス)7の物語」。熱海会談を分析して、幸之助さんの手法を解析してみると、3つの心構えと7つの決め手が大事だと思いました。
3つの心構えとは、「素直な心で物事を見る」「現場主義を貫く」「聞き上手に徹する」ということです。
それから7つの決め手としては、「経営理念を共有する」「危険信号の迅速な察知と対処」「病状の総合診断」。そして「自己...