●教える側が自ら出す約束状
日本の若者に“志”の木を植え付けたいという思いから始めたのが青年塾であります。今、卒業生の数は1500人になりました。けれども、まだ1500人なのです。日本中の若者の“志力”回復をやろうと思ったら、死ぬまでやっても追いつかないのです。やっとこれで人生のテーマができたなと思いました。
北は北海道から南は九州まで全国を五つのブロックに分けまして、各地区でクラスをつくっています。研修期間は大体1年3カ月。北海道は北クラス、その他、東クラスに名古屋を中心とした東海クラス、そして関西クラス、西クラスという五つのクラスを構えました。年間に7回、2泊3日の合宿をやります。私と妻は毎回それぞれの講座に出かけていきますので、年中旅をしています。夫婦旅芸人のようなもので、毎年、私どもが出かけていって、塾生を指導しています。
毎年、青年塾を始める前にまず私が約束をします。多くの学校や会社では、入ってくる人に誓約書を書かせます。私は逆なのです。教える側が教わる側に約束をするというのが最初にあるべきでないかと思ったのです。「塾生から誓約書を出してもらう前に、私が諸君に誓約書を出す。これが出来なくなったら青年塾は閉じる」ということを最初に言うのです。自分で自分自身を追い込んでいかないと迫力が出ないという思いから、最初に「青年塾運営のための私の三つの約束」というのを必ず出します。それだけで違ってきます。来た人に約束状を出させるより、自分で約束状を出す方が、力が湧いてくるのです。
●約束1.規則が必要になったら辞める
約束の一つ目。青年塾には規則というものが一つもないのです。「規則が必要になったら辞める」と私は言っています。規則がなければ秩序が保てないようになったら、もはや私の教育力はないと考えているからです。
私はこう言います。「規則だからやりません、という人になって欲しくない。良識と良心に照らし合わせて、やらないことはやらない、という人間になって欲しい」。「規則だからやりません」という人は、規則のないところにいったらやってしまいます。ですが、良識と良心に照らし合わせて、やってはならないことはやらないという人は、どこに行ってもやらないのです。
ですから、青年塾は規則をつくりません。けれども、どんなにたくさん規則がある場所よりも秩序立ちたいというのが私の夢なのです。規則がないからだらしないのではなくて、規則はないけれども、どんなに規則が多い組織よりも秩序立っている、というのが一番の誇りではないかなと思っています。このように、一番目の約束は「規則が必要になったら辞める」です。
●約束2.共に歩くことがつらくなったら辞める
二番目に「共に歩くことがつらくなったら辞める」。教育の原点は「共に歩くこと」だと思っているのです。2泊3日の合宿は全部フルコースで塾生と共に生活します。それは松下幸之助に言われた「君に本当にやる気があるのなら、塾生と24時間365日共に過ごせ」という言葉の原点から来ているわけです。自分の出番だけ出て教えて、後は寝ているとか、休憩しているとか、コーヒーを飲んでいるというようなことは一切しません。フルタイム、共にある。ですから全て分かります。要するに建前と本音が分かるようになるのです。
この二番目の「共に歩くことがつらくなったら辞める」は、私も自信はないのです。さらに年を取ると、朝はゆっくりしたいなとか、夜は早く寝たいなということもあると思うのです。合宿は毎回、6時ごろから始まって寝るのは11時ごろですから。若い人はそれからまだ一杯飲もうというので、それだけは勘弁してくれと言っていますけれど。そういう中で、お風呂に入るのも一緒です。だから教育できるのです。
●約束3.ワクワクと塾生を迎えられなくなったら辞める
三番目は「諸君を迎える時にワクワクしなくなったら辞める」。「また今年も始まるのか」となったら、失礼だと思うのです。初めて会う時のようなワクワク感がなくなったら辞めようということで、この三つの約束をしていつも青年塾でスタートしています。
●本当の勉強に必要な「一次情報で勝負する」
若い人を元気にするためにはどうしたらいいか、というのは私の最大の課題なのです。ある意味でそれは、現代の教育に対する挑戦だと思っています。松下幸之助自身がそうだったのです。われわれが勉強すると考えていることは根本的に違っているのではないかという投げかけでもあるのです。われわれは勉強するというとすぐ、高度な知識、新しい知識を増やすことをもって勉強と思うのです。しかし、幸之助はそうではなかった。青年塾でもそうです。本当の勉強とは何か? ということを根本的に考え直したい、ということ自体が...