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ローザンヌ合意は中東の典型的なゼロサムゲームの図式

中東の覇権を握ろうと目論むイランの野望

山内昌之
東京大学名誉教授/歴史学者/武蔵野大学国際総合研究所客員教授
概要・テキスト
ローザンヌでのイランとP5+1との核交渉(2015年4月)
2015年4月2日、イランのウラン濃縮に関する「ローザンヌ合意」がP5プラス1との間に交わされた。このことは、急速に進行する中東地政学の書き換えとどのような関係があるのだろうか。歴史学者・山内昌之氏に聞いてみた。
時間:10:33
収録日:2015/04/07
追加日:2015/04/14
カテゴリー:
タグ:
≪全文≫

●「中東地政学」の書き換えが進み、イランが浮上する


 皆さん、こんにちは。

 中東の地政学が急速に書き換えられています。しかもかつての米ソ両超大国のような具体的に誰と名指せる国や人物の強い意志が、この地政学的書き換えのかじ取りをしているわけではないところが一番の問題です。

 地元においては、イランがそれを自ら操っていると自負しているかもしれません。実際に2015年4月2日には、ウラン濃縮に関するローザンヌ合意が交わされました。イランにおける核開発を本格的な武器に転用することを阻止するため、P5(国連安全保障理事会の5カ国)プラス1(ドイツ)が、イランと合意することに成功したのです。イランはその力を誇示し、あたかもアメリカがイランに妥協したり、屈したかのような印象を与えようとしています。大変鋭いイランの宣伝技術が、そういうところにうかがわれます。

 他方、サウジアラビアやエジプトは、レバノンやシリアやイラクなど自分たちの庭であるスンナ派アラブの世界において、ともすればイランが優勢に立ちがちな今の状況にいら立ちを隠しません。そして、なんとか情勢の主導権を取り戻そうと、必死にもがいています。しかしイランは、最近イエメンにおいても攻勢を深め、ますますサウジアラビアらの反発を買い、あるいはその焦りを誘うかのようです。


●誰も覇権と支配の座につけず、迷走する中東外交


 トルコに目を転じれば、トルコの大統領と首相の二人は、かつて総理大臣と外務大臣の立場だったレジェップ・タイイップ・エルドアンとアフメト・ダウトオールが、そのまま横滑りしたに過ぎません。二人は、中東におけるトルコの進出を積極的に展開すべく、隣国間に「問題ゼロ外交」や「新オスマン外交」のキャッチフレーズを打ち立てて、苦慮しました。

 しかし、結果としてシリアの内戦激化を避けることはできませんでした。また、イスラム国家(IS)との不即不離の関係が欧米の疑惑を呼んでいます。トルコはNATO(北大西洋条約機構)の加入国、アメリカの同盟国、かつISに対するコアリション(有志連合)のメンバーであるにもかかわらず、ISへの人々や物品の通過を許可し、さらにISの石油を密かに購入しているからです。

 いずれにせよ、積極外交が挫折した後のトルコは、ともすればイランの後塵を拝するかのような地位にあります。そうし...
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