●供給が過剰で需要が減った時代、原油価格の下落は朗報
小宮山 最近、オイルの値段が半分に下がりましたね。それを「瞬間的だ」と言う人もいれば、「長いよ」と言う人もいるけれど、これは需給の反映であることは間違いありません。オイルは、ずっと足りなかったのです。以前から、「オイルなんて探せばどこにでもある」と言っていた人もいるけれど、シェールオイルが出て、それが現実のものとなったのです。最大の輸入国だったアメリカが輸出国になったと同時に、中国が減速したからたまたまだと言うけれど、そんなことはありません。中国の減速は時代のトレンドで、高度成長から中成長、低成長へと移っていく過程です。次にインドがどう立ち上がるかという問題はあるけれども、たとえ立ち上がっても、余剰の時代に入ったと、私は思っています。
ですから、オイルの値段が少なくとも200ドルまで上がっていくということは、あまり考えなくてもよくなりましたね。なぜなら、200ドルまで上がるのなら、ブラジルは7000メートルの地下から油を掘れば、まだまだあるよという話になるからです。そうすると、量はたっぷりありますし、サウジアラビアはオイルの原価が10ドルですから、「俺たちはどこまででもやるよ」と言い出すでしょうね。
つまり、今は供給が過剰で需要が減った時代なのです。そういう意味で、モデルが非常に大きく変わるし、世界経済にとって、特に日本経済にとって、オイルの値段が下がるのは朗報ですね。
ただ、そのとき、マクロの経済学者が言うように、オイルの値段とともにガソリンの値段が下がったから、それに応じてどれくらいガソリンの需要が増えますか? という議論は、今までほどには動かないのです。ガソリンの値段が160円から130円位に下がり、明らかにガソリンの需要が増えたという説はありますが、それは、昔マクロ経済が予測したほどではないのです。
なぜかというと、自動車の数はほぼ飽和状態で、燃費も良くなっているという背景があるからですね。世界中の先進国は、どこもそうだと思います。
●飽和を認めないとその先も見えない
―― 先生がおっしゃっている飽和型になったとき、成長する産業として人間が喜んでお金を使うものは何か、そちらのイノベーションを考えない限り、解決策はないですよね。先生は以前、「ローマクラブは成長の限界を示したけれど、私はプラチナ構想ネットワークで解決策を示す」と力強く話してくださいましたが、そういう意味では、画期的ですよね。
小宮山 私はそう思っています。「The Limits to Growth(ローマクラブの『成長の限界』の原題)」ですね。飽和ということを意識しないで、「飽和なんて来ないよ」と言っても、完全にはまだ来ていないけれども、先進国では来ているし、中国ももうすぐなのです。そうすると、世界の相当な部分になるので、飽和ということをまず覚悟することです。本当に覚悟すると、その先のことも見えてくる。ということで、飽和を何とか認めないといけない。まだまだいけるよと考えている人には、この先は見えないのです。私は、プラチナ構想ネットワークで、それを見たのです。
●乗数効果と価格弾力性が、技術系と経済系の人をつなぐキーワード
―― ある種の歴史の軸ですね。アンガス・マディソン(英国の経済学者)のようなものと、考え方、哲学の部分ですよね。それから、テクノロジーが分かったということですよね。経済学者は、統計学と数字には強いけれども、テクノロジーと、どれくらいの長さで歴史をみるのかということと、それからもう一つ、考え方、哲学を持っていないから、上下2パーセントで大騒ぎしている感じになると思います。
小宮山 そこのところの一つの鍵として、経済学者は多分価格弾力性という形で議論していると思うのです。それは、価格弾力性が議論する上でのモデルだからです。今、あなたは、テクノロジーということを私に言って頂いたわけだけれども、オイルの値段が下がったときに何がどれくらい増えるかということが、経済学の言葉でいうと、「価格弾力性が落ちている」ということだと思うのです。そのあたりに技術系の人と経済系の人が話のできる変換係数のようなものがあると思うのです。そこを理解すると、お互い違う分野の人間でも、相手の言っていることが理解できると思うのです。
マクロ経済は、一つは乗数効果ですよね。それと価格弾力性です。このあたりの言葉が、テクノロジーサイドの人とマクロ経済の人とミクロ経済の人が話のできる鍵かなと思っているのです。
●日本で議論をするとき、欠けているのは透明性とロジカルさ
―― ただ、いまだに文系理系と言っているのは、日本くらいですよね。普通、時間軸は二つくらい持っています。そのことが、議...
(ドネラ・H・メドウズ著、大来佐武郎翻訳、ダイヤモンド社)