●「紛争鉱物」と呼ばれるレアメタルの代表格はタンタル
大上 それでは、今日は、東京大学の岡部徹教授に、レアメタルの時事問題ということで、幾つかのトピックをお話しいただきたいと思います。
まず、ブラックダイヤモンド、あるいは、ブラッドダイヤモンドがあるように、ブラックレアメタル、あるいは、ブラッドレアメタルといわれるものがあると聞いたのですが。
岡部 ブラックレアメタルは、私たちの分野では「紛争鉱物」と呼ばれています。代表的なものにタンタルやコバルトなどがあるのですが、私の専門では、タンタルがいわゆる紛争鉱物の代表格の一つですね。
大上 タンタルは高いのですか。
岡部 金属タンタルの粉末は、末端価格で1キロ数万円の値段になります。何に使われているかと言いますと、携帯電話やパソコンなどの高性能コンデンサーで、電気をためる装置には不可欠です。
大上 日本が強い高級電子部品などに大量に使われているのですね。
岡部 まさにそうです。昔は、高性能、小型、熱的安定性がいいという意味で、軍事用の高性能コンデンサーや一部のオーディオファンのコンデンサーなど、超高性能コンデンサーとしてしか使われていなかったのですが、最近、携帯電話や移動機器が高性能化して、急速に使われるようになりました。それがタンタルコンデンサーで、その元となる重要なレアメタルがタンタルなのです。
●問題はタンタルが紛争地域から出ていること
岡部 問題は、そのタンタルが、いろいろな鉱山がある中で、現実的にアフリカのコンゴやルワンダといった紛争地域から主に産出されていることです。昔はオーストラリアの鉱山からタンタルを採掘していたのですが、開発や採掘コストがかかるので、実際には、最近は、豪州の鉱山は全く稼働していません。
ただ、統計上は、数年前までオーストラリアのタンタル鉱山からタンタルが産出されていることになっています。
大上 なぜそんなことが起こり得るのですか。
岡部 そうしておかなくては不都合だからです。タンタルには、紛争とは関係ない地域から調達しなければいけないという世界ルールがありますので、全てが紛争由来の国から来ているとなると問題になるのです。そういった意味では、コンゴなどの紛争地域から来ていることを皆さん隠したいので、統計上の操作が行われているのです。
●スクラップにするなどの偽装によって世界中に流通しているのが現状
大上 最近、それは是正されているのですか。
岡部 いえ。やはり実際問題として、コンゴなどの川底からタンタルを採掘することが一番手っ取り早く、安くていいものが取れます。かといって、それは、ともすると政府軍からではなく、反政府ゲリラから流れてくるものもあるわけです。そういう(非正規の)ものは(国際ルール上は)外に持ち出せません。
では、それをどうするのかというと、偽装するのです。一例を言いますと、例えば、鉱石をすりつぶしたり焼いたりしてスクラップにしてしまうのです。なぜかと言うと、スクラップにすれば、もはや天然鉱物由来ではなくなりますので(紛争鉱物ではなくなり)流通が可能になるからです。要するに紛争地域とは無関係であると見なせるので、そういった偽装が行われ、世界中に流通することもあるのが現状なのです。
大上 それを日本企業が使って部品にしているという事実が一つあるわけですね。では、その偽装に絡んでいる企業とは、一体どういう企業なのですか。
岡部 私も現地に行ったわけではないので分からないのですが、多くの場合、政府系も反政府系も、大体同じ欧米系の商社、または、物流ルートを使っています。最近では、中国がいきなり買い付ける場合もあります。要は、日本の企業とは直接関係ないところが一段階、二段階と関与し、ロンダリング(=洗浄)されて、きれいになったものを日本が購入し、工業製品として使っているというのが私の見立てです。ただ、その見立ても、実際のところ、どこまで真実か分からないのが現状なのです。
●経済合理性からロンダリングは当たり前と考えるのが現実的
大上 そういうところに、偽装までして関わって金もうけをする一方で、その結果、ロンダリングされたものを使って金もうけをする。ある意味、根っこのところは同罪と言えば同罪とも言えるのですかね。
岡部 これは考え方によると思います。レアメタルには、光と影の部分が多くあります。その影の部分をどう考えるか、これは難しいことなのです。経済合理性を追求するのであれば、そのようなロンダリングは(タンタルに限らず他のレアメタルについても)当たり前のように行われていると考えるのが現実的だと思います。
大上 それはある意味、この世界の常識であって、その常識にいきなり挑戦...