●ブーム化したレアメタルを主婦や子どもに講演する困難
大上 岡部先生は、何か最近、子どもや「おたく」に大変人気があるとお聞きしました。
岡部 はい。レアメタルが一時期ブームになって、その後、尖閣諸島の問題がありました。そのためにレアアースが「ちまたの流行」になったというのでしょうか。レアアースをはじめとするレアメタルが、主婦から小学生に至るまでの話題に上るようになりました。
ですから、いたるところで講演を頼まれます。一般にレアメタルの専門家が講演を頼まれるとなると、日本では技術者や学者が相手です。場合によっては、企業経営者の人たちが講演対象に入ってくる感じでした。ところが最近は、ともすると中学校や高校での出張授業のような場所で話をしなければいけないときがあります。
こうしたときに一番困るのは、レアメタルを説明するには、いわゆる元素の周期表を頭に入れてもらっていないと(話を進めるのがとても)難しいことです。小学生や主婦の皆さんは、周期表や元素記号などは、全く知らないですから、講演するのがとても難しいです。
●化学オンチにレアメタルを伝える「アニメ」の素晴らしさ
大上 ビジネスマンの周期表はほとんど知らないですよ。
岡部 ビジネスマンの方の中には、「私は、ああいう周期表を覚えるのが嫌になったから、理系から文系に移った」と言う方がいます。
そういう人たちの心をつかむには、アニメが一番いいのです。例えば、ガンダム。ガンダムの、あのボディーは「ルナチタン」というのです。なんと、チタンとレアアースの合金でできています。
ガンダムの作者(の先見性)は素晴らしいですね。技術的に言うと、今の技術力ではチタンとレアアースを混ぜ合わせることはできない。しかし多分、ガンダムが飛びまわる未来の時代になると、そういったレアメタル同士を混ぜた超合金ができるのでしょう。
超合金といえば、マジンガーZの「ジャパニウム」。これも、兜(カブト)博士というマジンガーZの設計者が富士山の麓から採掘し、抽出した「ジャパニウム」という未来レアメタルからつくったのが、超合金Zなのです。これは、「ブラストファイヤー」という超高温の炎にも耐える夢の未来材料なのです。
大上 なるほど。アニメのキャラクターにレアメタルが使われていることは、確かにあらためて実感しました。
●浅草寺も北野天満宮も「チタン屋根」を採用していた
大上 アニメ以外の身近な所にも、結構使われている例はあるのですよね。
岡部 はい。私がよく「身近なレアメタル」として皆さんに(講演の時に)一番最初に示すのは、浅草にある浅草寺です。雷門を抜けて入っていくと、大きなお寺があります。あそこの屋根には、見るからに重たそうな屋根瓦がたくさん使われています。もちろん昔は重たい素焼きのセラミックだったのですが、今は実を言うと全部チタンに置き換わっています。
大上 あれは、チタンなのですか。
岡部 実を言うと中身は空っぽで、瓦のような重量は全くないです。
大上 軽いのですね。
岡部 「瓦のふりをした」チタン(の板)です。また、京都に行けば、学問の神様を祭った北野天満宮があります。一見したところ、(銅の錆である)緑青を吹いて青い色をした銅板が屋根に使われていますが、ここでも「使われていました」と言うのが正確で、今はチタンが屋根に使われています。なぜかと言いますと、銅板でつくった屋根が青色なのは少しずつさびているからで、50年ごとに葺き替えなければいけないのです。これをチタンに代えると、もう永遠に保てます。
大上 軽くて強い、永遠の瓦なのですね。
岡部 そういう材料なのです。ただ、(通常の)チタンは経年変化せずにずっとピカピカしていますから、浅草の浅草寺ではセラミックのような黒い色(にサンド・ブラストで加工しています。)、北野天満宮では銅の青い色を塗って・・・。
大上 あれは、塗っているのですか。
岡部 (風合いのある緑色に)塗って、やっています。
●チタン滑走路の上をチタンが離着陸する羽田空港
大上 価格は結構高いのでしょうね。
岡部 高くなります。(現時点では)金額に糸目をつけない所でしか(使用)できないです。一般の建築では、フジテレビ本社の丸い球体などですね。それから、東京ビッグサイト。また、多量にチタンを使っているという意味では、羽田空港D滑走路の天井裏があります。
大上 新しくできた洋上の滑走路ですね。
岡部 これには、なんとチタンを1千トンも使っています。1トンのチタン板をつくるとなると、製造コストが大体数百万円かかります。それを1千トン使っているのですから、とてつもない使用量です。
大上 数十億円ですか。
岡部 皆さんが羽田空港のD滑走路か...