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描かれていない風景が描かれたもの以上のイメージを喚起

東洋思想の主張~見えないものを見る(2)分析主義と名人の包括的直観力のコラボレーション

田口佳史
東洋思想研究家
概要・テキスト
「松林図屏風(左隻)」(長谷川等伯)
東洋思想に精通する田口佳史氏によれば、これからの時代に求められるのは、見えないところを見抜いて多くの人に提示できる「玄人」の力だという。田口氏が、日本人が育んできた「見えないものを見る」力を実例を挙げて紹介し、東洋思想に新たなビジネスチャンス、企業活動の可能性を見出す。(後編)
時間:14:52
収録日:2014/11/12
追加日:2015/07/16
カテゴリー:
≪全文≫

●「玄」とは、感性を駆使して見ることに通じる


 日本で隆盛を極めた武道として、剣道があります。私の生徒には剣道の達人が非常に多くて、こういう人は老荘思想を非常に熱心に学びます。それはどうしてかと言うと、前の回で「玄」「見えないところを見る」ということを申し上げましたが、例えば「玄妙」などという言葉は老荘思想の最たるもので、その領域、心境に至らないと、剣も強くならないということです。

 剣道の奥儀とは、免許皆伝と申しますが、それはどこにあるかと言うと、「前のように後ろが見えるかどうか」ということなのです。前は当然肉眼で見えるのですが、後ろも肉眼で見ているかのようによく見えれば、それはもう免許皆伝だということです。

 しからば、では、後ろはどうやって見るのか。これは、気配や直感など、そういうもので見るのです。言ってみれば、人間に授かっている非常に微妙で、崇高な、上質なと言っても良いのですが、そういう人間の感性を駆使して見ていくという領域が、この玄人の「玄」の意味です。


●長谷川等伯の「松林図」に見る「描かないこと」の効果


 長谷川等伯という人の「松林図」という松林の図があります。これは、長谷川等伯のふるさとである能登の松林を描いた絵だとされていますが、ご覧になっていただければ分かるように、松をほとんど描いていません。この絵を見た人は「ちょろんちょろんとしか松がないじゃないか」とおっしゃるのですが、これは、朝もやに煙っているのです。

 つまり、いかに描かないかということが、むしろ多くのものを描いた以上の効果になるのです。つまり、見る人間からすると、「朝もやに煙っている」と言われれば、では、朝もやが晴れたら、どのぐらいの鬱蒼たる巨大な松林が現出することかといって、イメージがばーっと広がる。そのイメージが重要なのです。


●「見えないものを多くの人が見えるように提供する」というプロの概念


 それに対して、例えば、西洋のゴッホの絵などを想起していただければ分かるように、西洋の方は全部描くのです。日本側はいかに描かないか。いかに描かないかということは、要するに、いかに見えないところを見る方に見てもらうかということです。

 ですから、プロとしては「見えないところが見える」というところから一歩進んで、今度は「多くの人に見えないものを見させてあげる」というと...
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