『理財論』~山田方谷の人間哲学~
この講義の続きはもちろん、
5,000本以上の動画を好きなだけ見られる。
スキマ時間に“一流の教養”が身につく
まずは72時間¥0で体験
十万両の借財を十万両の蓄財に―財政のプロ・山田方谷
『理財論』~山田方谷の人間哲学~
田口佳史(東洋思想研究家)
十万両の借財を十万両の蓄財に変えた備中高梁藩の山田方谷は、政治家、財政のプロというだけでなく、漢詩や書にも長けた多才な人物であった。そんな山田方谷が書いた書物に『理財論』がある。単なる財政論にとどまらない彼の人間哲学について、老荘思想研究者・田口佳史氏が語る。
時間:11分03秒
収録日:2015年1月13日
追加日:2015年8月17日
≪全文≫

●財政改革を成功させた山田方谷は多才な政治家


 まずご紹介したいのは、備中高梁(岡山県高梁市)の山田方谷という人です。この人は、十万両の借財を8年間で十万両の蓄財に変えた人物で、藩政改革として非常に短期間で財政改革を見事にやり終えた財政家なのですね。

 ここで注意を払っておく必要があるのは、山田方谷が、今でいう経済学者だけではなく、政治家でもあった点です。そして、それだけではありません。なぜ借財を蓄財に変えられたかというと、鉄鋼産業を大いに隆盛にして、農機具をつくり、名産品として江戸近郊に売りに行き、大きな利益を上げたからです。ですから、その点では名経営者と言ってもいいですね。さらに、藩政改革をやった財務のプロですから、財政のプロと言ってもいい。加えて、この人は、すごい漢詩を詠んだことでも有名ですから、詩人と言ってもいい。そして、その書は、書家の作品と言ってもいいようなものでしたから、そういう意味でアーティストと言ってもいいのです。

 このように、幅広く、何ともいい難いほど太い人間が非常に多く存在したことも、教育環境においては、非常に重要だったのではないだろうか、という気になります。


●財政は大所高所から見る必要がある


 当時、高梁藩は、税収が少ない割に格式が高い藩であり、どうしても見栄を張ってしまうところがありました。それゆえ、どんどんと借財が多くなり、首が回らない、今でいうと倒産にまで行ってしまう状況にあったのです。そんな中で登場したのが、山田方谷でした。

 山田方谷は、今でいう財政論に当たる『理財論』という書物を書いています。これをまずご紹介したいと思います。

 「理財の密なること、今日より密なるはなし」、つまり、いま上の者から下の者までが「財政だ、財政だ」と言っている。「而るに邦家の窮するは、今日より窮するはなし」、つまり、藩全体がそのことばかりで頭がいっぱいで、ここからも取るのかというぐらいに税の取れるところならどんなところからでもどんどん取っている。さらに、切り詰めて切り詰めて、支出をどんどん切っている。しかし、現状は全く変わらない。

 これは、当時の高梁藩の話ではなく、何か今日の日本の話ではないかと思えるところがあるわけです。なぜこうなっているのかというと、「天下の事を制する者は、事の外に立ちて事の内に屈せず」と山田方谷は言...

スキマ時間でも、ながら学びでも
第一人者による講義を1話10分でお届け
さっそく始めてみる
「哲学と生き方」でまず見るべき講義シリーズ
世界神話の中の古事記・日本書紀(1)人間の位置づけ
世界神話と日本神話の違いの特徴は「人間の格づけ」にある
鎌田東二
死と宗教~教養としての「死の講義」(1)「自分が死ぬ」ということ
世界の宗教は死をどう考えるか…科学では死はわからない
橋爪大三郎
人の行動の「なぜ」を読み解く行動分析学(1)随伴性
「なぜ人は部屋を片付けられないか」を行動分析学で考える
島宗理
エネルギーと医学から考える空海が拓く未来(1)サイバー・フィジカル融合と心身一如
なぜ空海が現代社会に重要か――新しい社会の創造のために
鎌田東二
渡部昇一の「わが体験的キリスト教論」(1)古き良きキリスト教社会
古き良きヨーロッパのキリスト教社会が克明にわかる名著
渡部玄一
キリスト教とは何か~愛と赦しといのち(1)「イエス」とは一体誰なのか
「イエス・キリスト」という名前の本当の意味は?
竹内修一

人気の講義ランキングTOP10
中国共産党と人権問題(1)中国共産党の思惑と歴史的背景
深刻化する中国の人権問題…中国共産党の思惑と人権の本質
橋爪大三郎
プロジェクトマネジメントの基本(2)プロジェクトの複雑性とマネジメント
コスパが鍵!? 顧客満足につながる品質マネジメントとは
大塚有希子
葛飾北斎と応為~その生涯と作品(1)北斎の画狂人生と名作への進化
葛飾北斎と応為…画狂の親娘はいかに傑作へと進化したか
堀口茉純
エネルギーと医学から考える空海が拓く未来(1)サイバー・フィジカル融合と心身一如
なぜ空海が現代社会に重要か――新しい社会の創造のために
鎌田東二
何回説明しても伝わらない問題と認知科学(1)「スキーマ」問題と認知の仕組み
なぜ「何回説明しても伝わらない」のか?鍵は認知の仕組み
今井むつみ
「重要思考」で考え、伝え、聴き、議論する(1)「重要思考」のエッセンス
重要思考とは?「一瞬で大切なことを伝える技術」を学ぶ
三谷宏治
歴史の探り方、活かし方(1)歴史小説と史料探索の基本
日本は素晴らしい歴史史料の宝庫…よい史料の見つけ方とは
中村彰彦
内側から見たアメリカと日本(7)ジャパン・アズ・ナンバーワンの弊害
ジャパン・アズ・ナンバーワンで満足!?学ばない日本の弊害
島田晴雄
徳と仏教の人生論(1)経営者の条件と50年間悩み続けた命題
宇宙の理法――松下幸之助からの命題が50年後に解けた理由
田口佳史
学力喪失の危機~言語習得と理解の本質(1)数が理解できない子どもたち
なぜ算数が苦手な子どもが多いのか?学力喪失の真相に迫る
今井むつみ