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心を尽くすことこそ社会の基本―儒家思想の中核の教え

『盡心章句』~孟子からの最後の指導~

田口佳史
東洋思想研究家
概要・テキスト
孟子
山田方谷、佐藤一斎、林述斎らが学んだ四書五経の中で、人間の基本について考える上で鍵となるのは『孟子』である。その一番最後に『盡心章句』がある。そこで孟子が説いたのは「天命論」という仮説について、老荘思想研究者・田口佳史氏が語る。
時間:10:23
収録日:2015/01/13
追加日:2015/08/20
カテゴリー:
≪全文≫

●『盡心章句』は孟子からの最後の指導


 しからば、これまで挙げてきたような視点はどこから来るかというと、山田方谷、佐藤一斎、林述斎といった人たちが共通して学んだ四書五経です。では、四書五経にはそういったところがどのように記されているのか、一つご紹介しておきたいと思います。

 それは、『孟子』という書物で、孟子という人の言行や弟子とのやりとりをまとめたものです。その中に『盡心章句』があります。心を尽くすことこそが社会の基本、あるいは、人間の基本中の基本、根本中の根本であり、人間は心を尽くすようにできている。皆が心を尽せば、直ちに社会はよくなるが、心を尽くさず、だらしなくいい加減になっていけば、全てが混乱する、と孟子と言っています。そのことを、『孟子』の章句の一番最後に『盡心章句』として挙げて、われわれに訴えかけているのです。


●天命論~天の代わりとして人間を生んだ


 吉田松陰は、牢屋の中で『孟子』を講義しましたが、その講義録が『講孟箚記』という本になっています。『講孟箚記』などを読みましても、『盡心章句』は特段力が入っていると言ってもいいところなのです。

 その冒頭の文章がとても重要です。

 「孟子曰く、其の心を盡す者は、其の性を知るなり」

 「心を盡す(尽くす)」は、普通なら、真心込めて、と考えます。しかし、実は、ここで孟子が言いたい「心を尽くす」ことの本義は、もっと違うところにあるのです。その次の文章を見てみると、「其の性を知れば、則ち天を知る」とあります。つまり、天の心になることが、「心を尽くす」ことなのです。もっと易しく解釈すれば、天はどんなことを聞見しても、人間の社会を悪くしよう、人間の人生を悪く陥れようという意図はなく、むしろ、善を好み、なんとかよくしたい、なんとかいい社会と人生を歩んでくれということが天の願望、究極の望みである、ということです。

 しかし、どうでしょう。天は、形がなく言葉を持ちません。ですから、どうやってこの世をよくしようか、さらにどうやって人を教育しようか、と天は考えました。

 皆さん、もし自分がそのような立場にあったとき、どうしますか。これは、誰か自分の代わりになる存在を設けて、その存在にやってもらうしかないわけです。そこで天が考えたのは人間です。これが人間を生んだという、儒家の思想の根本をなす「天命論」...
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