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セキュラースタグネーションの背景にある先進国の成熟化

アベノミクス~第3の矢は如何に投資を引き出すかがポイント

伊藤元重
東京大学名誉教授
情報・テキスト
政府の経済財政諮問会議の議員も務める経済学者 伊藤元重がアベノミクスとその効果、今後の重要ポイントを解説する。
時間:14:30
収録日:2014/01/28
追加日:2014/02/24
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●世界は今、「セキュラースタグネーション」の中に


 アベノミクスを議論する前に、実はそのアベノミクス全体を理解するために非常に大事と思われることがあります。最近海外の経済の専門家の間で、「セキュラースタグネーション(secular stagnation)」という言葉がよく出ています。「セキュラー(secular)」というのは「長期間続く」といった意味で、長期的不況論ということです。

 これは、戦後直後にアルヴィン・ハンセンという、当時では最も影響力のあったケインジアンであるハーバード大学の教授がよく使った言葉です。一言で言うと、構造的に経済には不況的な状況が続くものがあって、したがって、単純な普通の正常な政策では、そこをなかなか脱することが難しい、ということです。

 したがって、ハンセンの場合は、非常に大胆ないわゆるケインズ政策をやるというような話になっていて、当時は非常に影響力があったのですが、戦後、いつの間にかその話はだんだん消えていきました。

 しかし、ラリー・サマーズがIMFの会議の中でこの話をまたぶち上げてきて、「どうも、世界はそのセキュラースタグネーションにあるのではないだろうか」と言ったのです。それ以前にもやはり、何人かの経済学者が言っていることにも非常に通じることがあったものですから、世界のいわゆる識者の中で広まり始めています。


●セキュラースタグネーションの背景にある先進国の成熟化


 実は先週、ダボス会議に行ってきまして、私もそのセキュラースタグネーションのセッションに入れられて、ラリー・サマーズとかハーバードのケン・ロゴフといった、いろいろな人と議論をさせていただきました。

 何が今、社会で、先進国で起こっているのかと言うと、例えば、アメリカ経済は2008年にリーマンショックがあり、非常に大胆な対応策をやっていたものですから、金融危機は比較的早く収まったのです。

 それにも関わらず、つい最近まで非常に長く不況が続いた。なぜこんなに景気がなかなか回復しないのだろうか。あるいは、欧州もご存知だと思いますが同じような状態で、それどころか、欧州は一つ間違えると、今の日本のようにデフレに陥る可能性もあります。何より日本もたしかにバブル崩壊、金融危機があったのですが、2000年代の初めに、りそな銀行の救済あたりでもうほとんど日本の金融危機は終わったのです。しかし、それから10年以上、そのデフレ不況が続いています。

 これはどうも構造的に非常にいろいろな問題が起こっているのではないか。日本の中で見れば、それはなんとなくよく分かる話で、高齢化などがこれから進んでいくということで、家計も企業もなかなか積極的に将来に向かって投資をするということはやりにくいし、むしろお金を使わないで貯蓄に回すという行動をずっととってきているわけです。

 それが結果的には、このセキュラースタグネーションの背景にあるのです。アメリカ、欧州も程度は違うのですが、やはり先進国はいっせいに成熟化しているということだろうと思います。


●注目のアベノミクス-第1・第2の矢とは


 では、それをどうやって脱したらいいのだろうかということが今、世界のグローバルな大きなイシューで、アベノミクスがこれだけ注目されている背景の一つは、そこにあるのだろうと思います。

 アベノミクスの場合、特に昨年、第1の矢ということで、金融をかなり緩和しました。また、財政も第2の矢でそれなりに機動的に出してきたというマクロ政策で、結果、ずっとデフレ状態にあった経済は非常にプラスになってきているし、株価もおそらく50パーセントぐらい上がっています。あるいは、成長率も過去10年平均すると、0.5パーセントか0.7パーセントだったのが、昨年度はどうも2.8パーセントぐらいまでいきそうだということです。また、雇用も少し前、数年前の景気が一番悪いときには、失業率5.5パーセント、有効求人倍率が0.5だったのが、今や失業率が4パーセントを切ろうとしていますし、有効求人倍率もやはり1を超えようとしています。明らかにそういう意味で、アベノミクスの第1弾である第1と第2の矢はうまくいったと言えます。

 その最大のポイントというのは、いわゆるデフレマインドのような部分を払拭することができれば、経済はいわゆるデフレのマイナスの循環から脱することができるということだろうと思います。


●アベノミクス第3の矢・成長戦略の鍵は民間投資の喚起


 問題は、ではこの先どのようになるだろうかということが、大きな鍵になります。

 多分プラスの部分とマイナスの部分とあると思うのですが、プラスの部分というのは、第3の矢ということになるのですが、第3の矢というのは、どうも世の中では少し誤解されて論じられるところがあります。

 第3の矢というのは、非常に縮小して...
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