中国経済の動揺と正確な楽観論の必要性
この講義の続きはもちろん、
5,000本以上の動画を好きなだけ見られる。
スキマ時間に“一流の教養”が身につく
まずは72時間¥0で体験
女子高生の噂から取り付け騒動へ―金融市場の「悪い均衡」
中国経済の動揺と正確な楽観論の必要性
政治と経済
伊藤元重(東京大学名誉教授)
中国経済をいかに見守るかは、頭の痛い問題だ。目先の思惑で皆が動けば、経済の良い均衡はあっという間に崩れ、危機が表面化してくる。そのために必要な「正確な楽観論」について、東京大学大学院経済学研究科教授・伊藤元重氏に語っていただく。
時間:12分31秒
収録日:2015年9月17日
追加日:2015年10月15日
≪全文≫

●「質への逃避」に走らせる中国経済の動揺


 ここ2、3カ月ぐらい、中国経済にいろいろなことが起き始めています。中国の不動産バブルがはじけたので不動産価格が下がるのは当然ですし、株価もかなりの操作によって無理やり高くなったわけですから暴落するのは当然です。また、中国経済の急成長が続くこともあり得ませんから、成長率の低下も当然です。ただ、困ったことは、それが世界経済全体にある種の危機としてつながるのではないか。その思惑が急速に広がったことだろうと思います。

 ここのところずっと、金融業界では「Flight to Quality(質への逃避)」が起きていると、よく耳にします。彼らの用語で、「株はちょっと危ないから売ってしまおう」と決め、その資金を安全な国債にシフトしていく。あるいは新興国の為替は危ないようなので、売ってしまって円やドル、最近ではユーロなどの安全通貨の方にシフトしていく。ということで、急速にマーケットが動揺していることがうかがえます。

 その間、株価や為替はヨーヨーのように動いていますので、今の状況についてかなり深刻に受け止めている人が多いのだろうと思います。


●危機は長時間かけて訪れるが、展開は急激で速い


 以前にこの場でお話ししたかどうか記憶にありませんが、この状況を見て思い出されるのは、MIT(マサチューセッツ工科大学)の故ルディガー・ドーンブッシュ氏の言葉です。もう亡くなってしまいましたが、彼は大変著名な国際金融学者で、通貨危機や為替問題の大家でした。彼が、亡くなる前に吐いた名言に「金融危機や通貨危機などの危機は、来る来ると言っていてもなかなか来ない。けれども、本当に来てしまったら世の中はあっという間に変わってしまう」といった内容のものがありますが、これがまさにポイントだろうと思います。

 過去を見てもそうだと思います。例えば、日本の1990年代後半、山一證券の破綻に端を発した大きな金融危機がありました。考えてみると、それより何年も前から日本の金融機関は相当深刻な不良債権を抱えていて、このままでは持たないのではないだろうかと言っている専門家はたくさんいたわけです。

 でも、危機は来ない。だから、なんとなく「そうは言うけれども大丈夫なんだろう」と思っていた。ところが三洋証券が破綻し、山一証券が破綻して、北海道拓殖銀行がおかしく...

スキマ時間でも、ながら学びでも
第一人者による講義を1話10分でお届け
さっそく始めてみる
「政治と経済」でまず見るべき講義シリーズ
岸信介と日本の戦前・戦後(1)毀誉褒貶相半ばする政治家
「昭和の妖怪」岸信介の知られざる実像を検証する
井上正也
自民党総裁選~その真の意味と今後の展望
「マスコミ報道」では見えない自民党総裁選の深い意味
曽根泰教
デジタル全体主義を哲学的に考える(1)デジタル全体主義とは何か
20世紀型の全体主義とは違う現代の「デジタル全体主義」
中島隆博
本当によくわかる経済学史(1)経済学史の概観
経済学史の基礎知識…大きな流れをいかに理解すべきか
柿埜真吾
危機のデモクラシー…公共哲学から考える(1)ポピュリズムの台頭と社会の分断化
デモクラシーは大丈夫か…ポピュリズムの「反多元性」問題
齋藤純一
トランプ政権と「一寸先は闇」の国際秩序(1)国際秩序の転換点と既存秩序の崩壊
経済秩序や普遍的価値観を破壊し、軍事力行使も辞さぬ米国
佐橋亮

人気の講義ランキングTOP10
ヒトは共同保育~生物学から考える子育て(1)動物の配偶と子育てシステム
ヒトは共同保育の動物――生物学からみた子育ての基礎知識
長谷川眞理子
未来を知るための宇宙開発の歴史(7)米ソとは異なる日本の宇宙開発
日本の弾道ミサイル開発禁止!?米ソとは異なる宇宙開拓の道
川口淳一郎
「集権と分権」から考える日本の核心(3)中央集権と六国史の時代の終焉
天平期の天然痘で国民の3割が死亡?…大仏と崩れる律令制
片山杜秀
数学と音楽の不思議な関係(1)だれもがみんな数学者で音楽家
世界は数学と音楽でできている…歴史が物語る密接な関係
中島さち子
モンゴル帝国の世界史(2)チンギス・ハーンのカリスマ性
自由な多民族をモンゴルに統一したチンギス・ハーンの魅力
宮脇淳子
DEIの重要性と企業経営(4)人口統計的DEIと女性活躍推進の効果
日本的雇用慣行の課題…女性比率を高めても業績向上は難しい
山本勲
睡眠から考える健康リスクと社会的時差ボケ(5)シフトワークと健康問題
発がんリスク、心身の不調…シフトワークの悪影響に迫る
西多昌規
「アカデメイア」から考える学びの意義(1)学びを巡る3つの危機
「学びの危機」こそが現代社会と次世代への大きな危機
納富信留
知識創造戦略論~暗黙知から形式知へ(1)イノベーションと価値創造
価値創造において重要なのは未来から現在を見るという視点
遠山亮子
トランプ政権と「一寸先は闇」の国際秩序(3)これからの世界と底線思考の重要性
同盟国よもっと働け…急激に進んでいる「負担のシフト」
佐橋亮