●中国から新興国全体へ-広がる金融危機
中国発の今のこの金融の流れというものを、ある人は「グローバルな危機」と呼んでいるわけですが、これをどう見るかということを、前回は少し別の観点からお話ししたのですけれど、もう一つぜひ申し上げたいことがあるのです。
何かというと、これは中国だけの問題ではないということを申し上げたいわけです。それは要するに、新興国経済全体に対するある種の信頼や、あるいはそのマーケットの見方がいま大きく転換しつつあって、ここをどう見るかということだろうと思うのです。
●BRICs注目のきっかけは9.11
ご存知のように、2001年にゴールドマンサックスのジム・オニールという人が中心になって、「BRICs」という言葉をつくりました。これは、ブラジルのBと、ロシアのR、インドのIと、中国、チャイナのCなのです。そして、これはどういうメッセージかというと、これからはBRICsの時代だ。その4カ国だけではなくて、それに加えてアルゼンチンや、あるいはトルコや南アフリカ、インドネシアなども含めた新興国が世界経済を非常に引っ張っていく、というような議論だったと思います。
実はオニールさんとは、ゴールドマンサックスの日本でのセミナーの時に一緒に対談をしたことがあるものですから、数年前に彼とお会いした時に、このBRICsとはどんな経緯でこういうことを言い出したのかという話を個人的に聞いたことがあります。その時に彼が言ったのは、2001年9月11日にアメリカのニューヨークとワシントンで大きなテロがあって、なんとなく世の中の雰囲気はテロだけではないけれど、グローバル経済、あるいはアメリカ経済というのは、やはりこれから非常に厳しいのではないだろうかという悲観論が非常に強かったが、彼らはそう考えなかった、ということです。
彼らはどう考えたかというと、やはりこれからは新興国がガンガン伸びてきて、これが世界経済を引っ張っていくということでした。したがって、新興国に注目すべきだし、グローバル経済にとっても非常に楽観していいというメッセージを世の中に出してきたのです。それが、結果的にBRICsという言葉にもつながったのだろうと思います。
●BRICsの経済成長をスパンを変えて見る
結果論から見ると、このBRICsという言い方は非常に成功しました。例えば、今の新興国が世界全体の経済に占めるシェアというのを見てみると、ある本に書いてあった数字をそのまま引用しますけれども、2000年には大体世界全体の20パーセントぐらいが新興国のシェアだったのが、その8年後の2007年には、約34パーセントまで膨れ上がっている。ものすごい勢いで新興国が膨れ上がっていて、そういう意味では、BRICsがこれから世界を引っ張るという、いわばキャッチフレーズは、非常に予想が当たったわけです。
ただ、リーマンショックあたりからこのゴールドマンサックスが出してきたBRICsという読み方に対して、少し懐疑的な見方をする人がたくさん出てきました。特によく注目された議論は、モルガンスタンレーのやはり有名なアナリストで、ルチア・シャーマというインド系のエコノミストが書いた「ブレイクアウト・ネーションズ」というものです。ブレイクアウト・ネーションズとは、要するに、これから出てくる企業、国というものを指しています。そういう本がもちろん出ているし(注:『ブレイクアウト・ネーションズ』早川書房)私はその本だけではなくて、彼がそのエッセンスをまとめた「ブレイクアウト・ネーションズ」という論文が『フォーリン・アフェアーズ』に出ていたので、それを読みました。
その中で彼は何を書いているかというと、いろいろなことを書いています。実は先ほど、2000年には20パーセントだった新興国のシェアが2007年には34パーセントに増えたと言ったのですが、少しさかのぼって1985年ぐらいまで戻ってみると、なんと新興国のシェアは24パーセントもあったのです。ですから、2000年から2007年まで見ると新興国はわーっと伸びているように見えるのですが、50年などの少し長いスパンで見ると、実はあまり変わっていないということです。ただ、2000年から2007年だけは異常に伸びたということをシャーマは言っています。
●新興国の急成長の原因は極端な金余り現象
問題は、2007年、8年以降もこのトレンドで新興国は伸び続けるかどうかということなのです。実際には、リーマンショック後に起こったことは、要するに、このシャーマの議論をむしろサポートする流れになりました。ご案内のように、ロシアが非常に厳しい状況になって、ブラジル経済も非常に駄目で、インドはもともと成長する前にこういう状況...