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地球温暖化対策は「地球のため」ではなく「人間のため」

地球の限界と日本人が幸せになれる道

住明正
理学博士/東京大学名誉教授/サステイナビリティ学研究機構・特任教授
情報・テキスト
地球温暖化対策は、「地球のため」ではなく「人間社会のため」だ、と国立研究開発法人国立環境研究所理事長・住明正氏は言う。それはどういうことなのか。今後われわれが取り組んでいくべき課題について、住氏に伺った。
時間:06:37
収録日:2015/11/27
追加日:2016/02/11
≪全文≫

●台風はなぜ地球温暖化に伴って大型化するのか


―― 地球温暖化による台風の大型化のメカニズムについて

住 一番基本的なこととして、台風が発生する原因は、熱帯地方で海面水温が上昇するからです。それによって水蒸気が増え、非常に多くの熱が放出されるのです。温暖化が進むと、以前よりも多くの熱が放出されるために台風も大きくなる。それが、大体普通の考え方です。


●地球のための取り組みは、われわれの社会のあり方に関わる問題


―― 今後の地球のために何に取り組んでいくべきか

住 非常に難しい問題ですが、「地球のため」というのは間違っていて、やはり「人間社会のため」ですよね。地球はどうしても地球ですから、あるがままにいくわけです。

 だから、やはり現在のわれわれの社会がトラブルなく、できる限り穏やかに将来も長続きしていきたいと思うことなのであって、それはつとめて、われわれの社会のあり方の問題に関わります。

 そうすると、非常に大きな問題は、やはり皆の心の中にゆとりがあるような社会にしていく必要があるだろうということです。そのために、一つには格差の是正がありますし、ある一定程度には、グローバルな経済発展も不可欠になってきます。


●フロンティア手法は制約条件へのすり替えだった


住 しかし、一方で資源の制約があり、温暖化に伴うCO2排出の制約すなわちエネルギーの制約など、さまざまな制約条件があります。そうした制約条件の下でどうやっていくのかを考えることが、われわれの使命でしょう。

 それは昔からそうではあったのですが、昔はその意識がありませんでした。一番いい例は、「新大陸の発展」と呼ばれるもので、当時はヨーロッパという「旧大陸」が行き詰まっていたときだったのですが、「新大陸があるから、全部ゼロから始められる」という形で、問題をすり替えた。その「新大陸」は、アメリカインディアンの犠牲の下に生まれたわけです。

 いままでの人類の歴史を見ると、例えば新しいエネルギーを使うために森をばっさばっさと切り開くだとか、新しい土地を使うだとか、結局は何かにすり替えて矛盾を糊塗してきたのだということが分かります。

 残念ながら、地球全部に(文明が)行き渡ってしまった現在では、新しい場所=フロンティアに行きさえすれば、伝統的な問題がすり替えられるという手法が使えなくなってきた。そのことを認めるのが、やはり大事なことではないかと思います。


●無限に領土を拡げるか、制限の下で暮していくか


住 ところが、中にはそれは嫌だという人もいて、「テラフォーミング」などの発想に走ります。新しいフロンティアがなければ、地球の外側につくればいいではないか。あるいは深海に行くのもいい。そういったSFチックな話がいろいろあるのは、そういう方向性の一つなのです。

 それとは逆に、「フットプリント」という言葉があるように、ある制約の下、地球という限界を認めたものの考え方は、日本人にとっては当たり前のように思われますが、それが嫌いな人もいます。制限拘束条件の中で自分たちが縛られているのは非常に嫌だ。人間というのは、あらゆる困難に打ち勝って未来に向かっていくべきだというのです。そういうマッチョな考え方が好きなグループもあるわけです。

 その辺りはものすごく難しいのです。厳しい制限を認めて、それにアジャスト(適応)してひっそり暮らすことは、何の進歩もない頽廃した社会ではないかと思うのか。いや、そういう中でもそれなりにいろいろなことにこだわれば、文化そのものは発展できるではないかと考えるか。そこは、いろいろなものの考え方の違いです。ただ、やはり皆が幸せになるような解を求めるために、どういう条件を加味するべきかという問題なのだろうと思います。


●イケイケどんどんだった「オープンシステム」といまは違う


住 昔はやはりオープンシステムで、エネルギーは無尽蔵にあるという仮定の下、どこからでも持ってくればいいという発想でやろうとしました。有名なのは田中角栄の「日本列島改造論」です。あれは、エネルギーは安く外からどんどん入るものだという前提の下、日本中の人が東京も地方も区別なく幸せに暮らすにはどうすればいいかということで、「イケイケどんどん」でやろうという論を立てたわけです。

 しかし、いまの状況は多分違っていて、エネルギーにも制約があるし、モノにも制約があります。いろいろと制約条件が多い中で、全ての日本人が幸せになれる道は何だろうかと考えるのが、いまのチャレンジだと思うし、それが大きな課題だと思います。

 ところが、いまの近代科学の中に、そういう方向性を持つ学問体系はあまり見つからないのです。常に新しいものをつくってくるなど、要するにある意味「イケイケ」型のものだっ...
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