発酵はマジックだ!
色を消し、脂を溶かし、水を分解―スゴすぎる発酵の力!
発酵はマジックだ!
科学と技術
小泉武夫(農学博士/食文化評論者/東京農業大学名誉教授)
瞬時に色を消す「脱色微生物」。動物性の脂を植物性に変えて溶かしてしまう驚異のカビ。水を分解して酸素と水素に分けてしまう水素細菌。SF小説のような話だが、どれも実在する微生物の「発酵の力」だ。発酵学の第一人者、食文化評論家で東京農業大学名誉教授・小泉武夫氏が「発酵の力」を語る。
時間:8分39秒
収録日:2016年2月4日
追加日:2016年3月31日
収録日:2016年2月4日
追加日:2016年3月31日
≪全文≫
●微生物は超能力を持っている!
皆さん、こんにちは。小泉武夫です。私は発酵学を専門にしています。発酵とは、目に見えない微生物が、米や牛乳や豆など、いろいろな食品に作用して、人間にとってとても素敵な食べ物をつくってくれるようなものを「発酵食品」といいます。発酵の世界は食べ物だけではなく、抗生物質や制癌剤やアミノ酸など非常に多様で、実にすごい世界を持っています。
例えば、われわれはがんやその他さまざまな病気で手術をしますが、実は発酵がないと手術はできません。「ええっ?」と驚くと思いますが、それは何かといえば、発酵の分野の中に抗生物質というのがあるのです。抗生物質を打たなければ、手術はできません。切った所から膿んでいってしまいますから、皆、肺炎になってしまいます。そうならないように、発酵によって腐敗菌を抑えるのが抗生物質です。そういう力を微生物はたくさん持っています。
微生物の力は、まだまだ分からない世界です。例えば、人間は摂氏100度のお湯に手を入れたら、やけどをしてします。ところが、イタリアのナポリの海底火山では、摂氏113度の熱湯の中で死なない、むしろそこの方が快適だというサーモフィルスというバクテリアがいます。このように、信じられないようなことがたくさんあります。
それらを、われわれは「微生物の超能力」と呼んでいます。そして、微生物は超能力を持っているのだから、「発酵とはマジックである」と私どもは学生によく言っています。東京農業大学で発酵化学研究室を担当していた頃、「超能力微生物」の研究グループを指導していました。いろいろな超能力の微生物がいます。今日はその中の事例を一、二、お話しします。
●瞬時に色を消す「脱色微生物」のマジック
一つ目は、これを見てください。これは私が理事長をしているNPO法人発酵文化推進機構の機関紙『KAMOS(カモス)』です。ここに私が赤い色素の入った容器を持っています。実は、ある微生物の体内から取り出したある酵素をこれに入れると、瞬間的に色が消えてしまいます。つまり、色を消す微生物がいるのです。これを「脱色微生物」といいます。これは、われわれが発見しました。学生に「どこにこれがいたと思う?」と聞いても、誰も分かりません。分からないはずです。この色を消す微生物は、秋田県の八幡平という国定公園にいる野鳥のキジ...
●微生物は超能力を持っている!
皆さん、こんにちは。小泉武夫です。私は発酵学を専門にしています。発酵とは、目に見えない微生物が、米や牛乳や豆など、いろいろな食品に作用して、人間にとってとても素敵な食べ物をつくってくれるようなものを「発酵食品」といいます。発酵の世界は食べ物だけではなく、抗生物質や制癌剤やアミノ酸など非常に多様で、実にすごい世界を持っています。
例えば、われわれはがんやその他さまざまな病気で手術をしますが、実は発酵がないと手術はできません。「ええっ?」と驚くと思いますが、それは何かといえば、発酵の分野の中に抗生物質というのがあるのです。抗生物質を打たなければ、手術はできません。切った所から膿んでいってしまいますから、皆、肺炎になってしまいます。そうならないように、発酵によって腐敗菌を抑えるのが抗生物質です。そういう力を微生物はたくさん持っています。
微生物の力は、まだまだ分からない世界です。例えば、人間は摂氏100度のお湯に手を入れたら、やけどをしてします。ところが、イタリアのナポリの海底火山では、摂氏113度の熱湯の中で死なない、むしろそこの方が快適だというサーモフィルスというバクテリアがいます。このように、信じられないようなことがたくさんあります。
それらを、われわれは「微生物の超能力」と呼んでいます。そして、微生物は超能力を持っているのだから、「発酵とはマジックである」と私どもは学生によく言っています。東京農業大学で発酵化学研究室を担当していた頃、「超能力微生物」の研究グループを指導していました。いろいろな超能力の微生物がいます。今日はその中の事例を一、二、お話しします。
●瞬時に色を消す「脱色微生物」のマジック
一つ目は、これを見てください。これは私が理事長をしているNPO法人発酵文化推進機構の機関紙『KAMOS(カモス)』です。ここに私が赤い色素の入った容器を持っています。実は、ある微生物の体内から取り出したある酵素をこれに入れると、瞬間的に色が消えてしまいます。つまり、色を消す微生物がいるのです。これを「脱色微生物」といいます。これは、われわれが発見しました。学生に「どこにこれがいたと思う?」と聞いても、誰も分かりません。分からないはずです。この色を消す微生物は、秋田県の八幡平という国定公園にいる野鳥のキジ...
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