●最初のターゲットは明神礁
その後、私たちはベヨネーズ海丘に出かけています。これは明神礁にあるベヨネーズ列岩という有名な岩です。この辺りにはたくさんの海底カルデラがあって、熱水地帯になっているので、それを調査しました。
海中ロボットがしなければならない仕事はたくさんありますが、最近の重要な仕事は海底の熱水鉱床の調査です。「海のジパング計画」でもご説明したように、日本の周りにはたくさん海底カルデラがあって、熱水鉱床が形成されています。すでに発見されている数の10倍、100倍あるのではないかとも言われています。その候補の一つがベヨネーズ海丘です。目的としては、熱水活動を発見します。またこのカルデラは急峻な崖に囲まれていますので、潜航するのは難しい。さらに黒潮が流れていますから、ロボットを潜らせるのは危険です。われわれとしては、そうした危険なところにあえて潜らせて、能力を上げていきたいのです。簡単な仕事をさせるだけだと楽ですが、それでは駄目なのです。
伊豆小笠原諸島からマリアナ諸島まで、ずっと列島になっています。この列島に沿って海底火山や火山があります。明神礁はこの辺りです。海底の地形図を見ると、このようになっています。これが明神礁カルデラで直径が7キロほど。阿蘇山のカルデラが直径20キロくらいですから、その3分の1の大きさです。阿蘇山は、上から見ればカルデラの広がりが分かりますが、海底では音響を使って地図を作らないと私たちが見ることができません。その北に明神海丘カルデラ、ベヨネーズカルデラ、南の方にはスミスカルデラという大きなカルデラがあります。われわれは後でこちらの方にも行きました。
われわれの最初のターゲットは、明神礁カルデラでした。明神礁、ベヨネーズ、明神海丘、スミスの各カルデラを立体的に見るとこのように見えます。明神礁カルデラは深さが900メートルほど。ベヨネーズカルデラはもう少し浅くて800メートルくらいです。
●危険なところにこそ、ロボットが行くべき
まず明神礁についてご説明したいと思います。われわれはロボットの行き先をよく勉強しておかなければ、潜らせることができません。ここがベヨネーズ列岩で、もう地形が分かっていました。カルデラはこのように広がっています。われわれは、最初はこの火山、カルデラを調査しなければならないと思っていたのですが、途中で明神礁に熱水地帯があるはずだと考え、調査場所を切り替えたのです。
明神礁は1952年に噴火しました。この噴火に巻き込まれて、海上保安庁の船が沈没し、三十何名がお亡くなりになっている危険な場所です。なぜ海上保安庁の船が沈没してしまったかというと、噴火が始まった場所は分かっていたのですが、当時はGPSがなく、自分たちが正確にどの位置にいるかが必ずしも今のようによく分からなかったためです。しかも、今まさに噴火している西ノ島は陸上に出ていますが、このように海底の浅いところの噴火はいきなり来るわけです。それで、船が噴火口の真上にいたときに噴火してしまったのです。こうした危険なところにこそ、ロボットが行くべきです。ロボットにはかわいそうですが、人間ができないことはロボットが行えば、それだけロボットとして価値があるということになります。
●明神礁やベヨネーズカルデラにロボットを潜らせた
黒潮が紀伊半島から南へ下がって、こう曲がって行くのを「黒潮の大蛇行」というのですが、明神礁は大蛇行の南の端辺りにあって、観測するには環境が悪いところです。さらに海底火山の列から湧き上がってくる水の流れがあって、それがより厳しさを増しています。これは明神礁カルデラにロボットが潜って行っていくところをアニメーションにしたものです。ロボットはこうやって底を走って、サイドスキャンを出しながら海底を調べています。
われわれはASIMOと違って、現場を直接見ることはできません。寂しいことです。ただ、ロボットが活躍しているのを横から見られず、結果しか分からないのではアピール力がないので、何とか後ろに撮影用のロボットを走らせて、仕事をしているところを撮影できないかと考えています。それができれば、ロボットが仕事をしているのが皆さんにも分かりますから。
ここは中央火口丘で、ずっと昔に噴火したところだと思いますが、何か白っぽく見えます。その後の調査で、この辺りに熱水があることが分かりました。つい10年ほど前、ようやく熱水活動があることが分かってきたのです。一方、明神礁にはたいした熱水がありませんでした。ただ、こちらのベヨネーズカルデラのこの辺りに熱水活動があることは、今から25~26年前に発見されています。経済産業省はそこを掘ろうと集中的に調査を進めています。
われわれはその前...