●自分たちでフィードバックサイクルを回すのが「ロボット学」
私たちがロボットをつくるときに重要なのは、ロボットがきちんと仕事をすることをユーザーに見せることです。つまり「できました。使ってください」ではなくて、私たち自身がロボットを運転して、海底の観測、資源の調査、情報の収集をすることで、ロボットがしなければならない仕事、ロボットの環境に対する知識を増やして、次のロボットを開発していくのです。つまり、「フィードバック」です。このフィードバックの循環がないと、良いロボットはできません。自動車を開発するときも、「社長が言うような自動車をつくりました」ではなくて、その自動車を自分で運転して、どこが良いか、どこが悪いかを理解することが大切でしょう。テストではなく、それを実際に行うことで、より自動車が良くなっていくのです。その点では、ロボットも自動車も同じです。
特に観測用のロボットの多くは、エンジニアたちが現場で使うチャンスはほとんどありません。基本的にはユーザーが使うものです。われわれはそれではいけないと考え、積極的に自分たちがユーザーとして観測を行い、観測データをサイエンティストの人たちに示すようにしてきました。これはとても大事なことです。このサイクルを回すことを「ロボット学」と呼んでいるのです。
●ロボット研究では「センサー」と「ロジ」が大事
繰り返しになりますが、自律型海中ロボットの具体的な定義は、自身が取ったセンサーデータを解析することで、周囲の環境と自分自身の状態を理解して、海中で自ら行動を決められることです。自律型海中ロボットの基本は、「センサーデータ」なのです。
これは「ツナサンド(Tuna-Sand)」というロボットですが、これが行動を決める際は、搭載されているセンサーが情報を獲得して、その情報をコンピューターが処理し、タスク(仕事のパーツ)を次々に切り替えていきます。この「タスクの切り替え」が、最終的に行動を決めるのです。つまり、人間に例えると、センサーが五感で、コンピューターは頭脳、仕事をするのは運動器官です。この三つがそろわないと、ロボットはきちんと動きません。特に重要なのはセンサーです。センサーが何をセンシングして、コンピューターにどのようなデータを教えてくれるのかが、行動の質を左右します。ついついロボットの研究者はコンピューターと運動器官を研究したがって、センサーをおろそかにしがちですが、特にわれわれのように自然環境で働くロボットをつくる場合、周りを理解するセンサーテクノロジーが極めて重要になります。
それから、重要なことがもう一つあります。ロボットを使うためには、ロボットを海に持って行かなくてはなりません。ロジ(ロジスティクス、兵站)です。ロボットは、現地まで船に乗せて行き、クレーンで降ろします。その船は船長さんが指揮し、デッキにいる方々がいろいろな作業をします。船に乗っている間、どうやって電池を充電するかといったことも考えなくてはなりません。こうしてロボットを現地まで運べなければ、ロボットは仕事ができないのです。ロボットの設計から、ロジまでのロボット計画を研究することをわれわれは「ロボット計画学」と呼んでいます。ロボット学には、このロボット計画学も含むのです。ASIMOのようなロボットは、めったにアウトドアへ出て行きません。そうすると、ロジはあまり気にならない。ところが海に出かけていくとなると、ロジが大変だということが分かるわけです。ロボット学のベースにロジがあることを忘れてはならないと思います。
●耐圧容器の周りに浮力材を付ける必要がある
私たちが2003年につくった主力の航行型AUV「r2D4」についてご説明したいと思います。この写真は、佐渡の両津港の桟橋に置かれたr2D4です。でき上がってすぐ、2003年のうちに潜って調査を行っています。少し斜め前からの写真なので丸く見えますが、重さが1.6トンあるロボットで、水深4,000メートルまで潜れます。内部がどのようになっているかというと、中央に電子機器や電池を入れる耐圧容器が入っています。その他に、プロペラを動かすアクチュエータ、航行用センサー、観測用センサーなどがいろいろと積まれています。その周りをフェアリングというカバーで囲っています。このカバーは耐圧容器ではなくて、バイクでいえばカウリングで、水を整流するのが主な役目です。圧力はあくまでも耐圧容器で受けるのです。
この図には、かっこ書きで、どの国でつくられている部品なのかが書いてあります。例えば、水中コネクタは米国製、CTDOという計測機も米国製です。障害物探査装置は英国製。日本のものが少ないのがお分かりいただけると思います。水中技術で日本は遅れを取って...