●海底地形図の分解能を高めるには海底に近づけばよい
これから、第8回のお話をします。これまで私たちがつくってきた自律型海中ロボットが何をしてきたかをお見せしましたが、それらをまとめて、自律型海中ロボットの効能についてお話ししたいと思います。
この図は、2010年ごろに作成した自律型海中ロボットが熱水鉱床を調べていくというストーリーです。ここには、自律型海中ロボットの効能が端的に示されています。従来は測量船が海底の地形を調べていました。使っていた道具はマルチビームソナーです。このソナーが1度や2度といった角度の音波を出して調べると、海底の地形図が得られます。しかし、例えば1,000メートルや2,000メートルだと、距離が長いので海底地形図の分解能が悪くなります。例えば、1度のビームは2パーセントですから、1,000メートルの海底なら20メートルの水平分解能の地形図ができます。もっと細かく知るためにはビームの幅を狭くする必要がありますが、その技術はすでにサチュレーション(飽和)していて、これ以上細いビームを出すのはなかなか難しいのが現状です。
それなら、海底に近づけばいいのです。1,000メートルが100メートルになれば、10倍の分解能で海底が見られます。10メートルに近づけば100倍になります。これが、ロボットが海底に進出する意味です。より細かい地形が見えてくると、以前にお示しした伊是名海穴の海底地形図なども細かく見えるわけです。100メートルで2パーセントなら、2メートルの水平分解能で地形図を作れるのです。2メートルまで近づけば写真が撮れますから、ミリメートルオーダーの細かさで分かってきます。
●分解能の高い情報が手に入ると、新しい興味が起こる
このようなストーリーで海底を調査できるわけですが、従来は自律型海中ロボットがなかったために、測量船が作る地形図で満足していました。ところが、海底熱水鉱床などを開発するときには、測量船の20メートルグリッドの図面では不足しており、もっと細かい図面が欲しいということになります。そこに自律型海中ロボットが活躍する道があるのです。
r2D4のような航行型ロボットなら海底まで10メートルや100メートル、Tuna-Sandのようなホバリング型は1メートル、2メートルにまで近づける。より細かい地形図を作ることができます。そこで重要になってくるのは、「いったい何が見たいのか」ということです。私たちは、「水平分解能」についてよく考えなくてはなりません。その例を今からお示ししたいと思います。
これは分解能1の絵です。いったい何が写っているのでしょうか。倍の分解能にすると、真ん中に物があるのが見えてきます。さらに分解能を倍にすると、人が立っているのではないかと見えてくる。またまた分解能を高めると、誰かおじさんがいます。そこから倍にすると、まだこれが浦環かどうかは分かりませんが、何かを手に持っているようです。ただ、何を持っているのかはよく分かりません。もう一段分解能が良くなると、浦環が見えます。持っているのは、焼酎か日本酒かワインのボトルでしょうか。さらに分解能を上げてみます。ワインのボトルであることが分かりました。しかし、このボトルが開いているか、閉まっているかは分かりません。さらに、ここまで分解能を高めると、実はワインが開いていることが分かります。それからもう一つ、後ろに桜島が写っています。これは、桜島の錦江湾に浮かぶ船の上から撮った写真なのです。もっと細かくすれば、ワインの銘柄も分かるでしょう。
今の写真を順番に並べるとこのようになります。先ほどお話しした船からの地形図データは、せいぜいこの程度の分解能でものが見えていたに違いありません。それを自律型海中ロボットが100メートルまで近づいて調べると、こうなります。そうすると、今まではワインかどうかが分かれば満足していたのに、ワインが開いているか閉まっているか、ワインの銘柄が何なのか、何年製なのかまで知りたくなってきます。より分解能の高い情報が手に入ると、新しい知見、新しい興味が起こってくるのです。この程度の分解能しか見ていなかった人と、ここまで精緻な地形図を見ている人では、興味・関心のレベルが全く違います。これが、自律型海中ロボットが導入されたことで、今までと状況が変わってきた大きな理由です。
●磁場を調べると、海底の構造が見えてくる
問題は、いきなり自律型海中ロボットで細かいレゾリューション(分解能)の地形図を作るのが難しいということです。順番に進めなくてはなりません。まずは調査船を使って粗いデータを取り、この辺を詳しく見ればよいのではないかということを考えます。次に、インターフェロメトリーソナーや合成開口ソナーなどの新しいツールを自律型海中ロボットに乗せて、より細かい地形...