●住み慣れたところで、安心して自分らしく年を取る
Aging in Placeとは、少し弱ってきても、住み慣れたところで、安心して自分らしく年を取るということです。75歳以上の方にヒアリングをすると、ほとんどの方が、今の生活を来年も、3年後も、できれば10年後も続けたい、と言われます。例えば、冬になるといつも行くお豆腐屋さんで豆腐を買ってきて、いつもの土鍋でいつものタレで湯豆腐を食べる、というようなことです。そういう日々の生活を来年も10年後もできたらいい、と言うのです。それを実現するのが、Aging in Placeです。住み慣れたところで年が取れるように、ということです。
●人生100年時代には、ライフステージに応じて家を住み替えていく
まず、住宅のことを考えなくてはいけません。ご存じのように、日本は持ち家政策を進めてきました。例えば、サラリーマンが40歳くらいになる前に、土地を見つけてローンを組んで、2階建ての家を造って、そしてローンを返していく。こうしたことが推奨されていました。ところが、寿命が60歳ほどだった頃はそれで良かったのですが、今90歳、100歳まで生きるようになると、問題が出てきます。お父さんが一生懸命働いて造ってくれた家に、ストレスを感じる人が非常に多いのです。例えば、子どもが出ていってから2階の部屋は一度も開けたことがないとか、庭木や雑草が茂っているから、カーテンを閉めっぱなしにしている、といったことがあります。2階建ての一軒家に、2人ならまだしも、1人で住んでいる方が非常に多く、それがストレス源になっているのです。
つまり人生100年時代には、それぞれのライフステージに応じて、必要な家に住み替えていくという、循環型の住宅政策が望ましいのではないかと考えています。そこで、今建て替えている柏のURの団地には、小さいユニットと大きいユニットを設けました。子育てをしているときには大きなユニットに住み、子どもたちが成長して家を出ることになったら小さいユニットに移る。1人暮らしが少し不安になったら、サービス付きの高齢者住宅に移ったり、もっとケアが必要になるのであれば、同じ敷地内にあるグループホームに移る、という具合です。こうすれば、同じスーパーに行って、同じお医者さんに診てもらって、そして顔なじみの中で暮らしていくということを続けながら、家を住み替えていくことになります。こうした循環型の住宅を実験してみるということです。
●住んでいるところに、医療やケアを届けるという仕組みが必要になる
次に考えなくてはいけないのは、医療と介護、ケアのシステムです。耳にすることも多いと思いますが、国は地域包括ケアを推進しています。今までは、大きな病院に診察してもらいに行くということが、高齢者の典型的な思考パターンでした。しかし、これから75歳以上の人が増えてくると、病院に行こうと思っても移動手段がない、といった問題が生じてきます。したがって今、住んでいるところに医療やケアを届けるという仕組みが必要になります。地域包括ケアというのは、コミュニティーを中心に、医療や介護サービスのシステムをつくるということです。
この図にあるように、主に住民向けに、関連する医療機関や介護施設が、連携してケアプランをつくり、サービスを提供していきます。必要なときには、地域の大きな病院やリハビリテーションセンターに行くけれども、基本的にはかかりつけのお医者さんに診てもらいながら、ホームヘルパーに来てもらったり、デイサービスに行ったりという形で、日常生活を送っていく。こうした地域包括ケアのシステムを念頭に置いて、団地の真ん中には在宅医療の拠点をつくっています。
さらに、その隣にサービス付きの高齢者向け住宅を建てました。その1階には、24時間対応の医療機関、訪問看護ステーション、訪問介護ステーションを設置しました。薬局から薬を宅配してもらえるようにもなっています。こうしたサービスは、この住宅に住んでいる方だけに提供されるのではなく、地域全体に提供されます。今までの介護施設のサービスを、食事も含めて、住んでいるところに届けることができるようになりました。こうしたシステムをつくるため、非常に大きなプロジェクトになります。
●代替の移動手段の提供が大きな課題である
さらに、移動手段の問題もあります。75歳以上になると、車の運転が難しくなる方が増えてきます。柏の場合はまだ、循環バスが10分置きぐらいに通っているので、バスに乗れる限りはいいのですが、福井の場合、その場所には公共の交通機関がほとんどありません。自分で車を運転できなくなると、買い物にも医療機関にも行けない状態になってしまいます。そこで、代替の移動手段をどのようにして提供していくのかが、大きな課題です。
例えば、スライドのよ...