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都議会選挙の結果を理解するための3つの観点

2017年東京都議会選挙の結果と国政への影響

曽根泰教
慶應義塾大学名誉教授/テンミニッツTV副座長
情報・テキスト
2017年7月2日に行われた東京都議会選挙の結果、都民ファーストの会が圧勝し、自民党が大幅に議席を減らした。選挙期間中には小池百合子知事の二元代表制に批判がなされたが、政治学者で慶應義塾大学大学院教授の曽根泰教氏によれば、批判は当たっていないという。都議会が果たすべきチェック機能とは何か、都民ファーストの国政進出はあるか、曽根氏が解説する。
時間:14:09
収録日:2017/07/03
追加日:2017/07/07
カテゴリー:
≪全文≫
●都議会選挙の結果を理解する3つの観点

 都議会選挙が終わりました。この結果をどのように理解すればいいのか、大きく3つの観点からお話します。1つ目は、選挙結果をどう解釈するのかということです。2つ目は、今回出てきた、二元代表制という問題です。知事が政党を作れば、チェック機能が失われるのではないか、と言われています。3つ目は、国政および国政選挙への影響です。この3点に絞って、お話します。


●都民ファーストの会が勝ち、自民党が大幅に負けた

 第1に、都民ファーストの会は、なぜ圧勝したのでしょうか。公認候補が50人いましたが、島しょ部で1人落選したのを除いて、その他は全員当選しました。しかも上位で勝っています。これは圧勝と言っていいでしょう。小選挙区、つまり1人区だけで圧勝だったわけではありません。例えば、世田谷区のような8議席の選挙区でも、勝っています。

 この点において、フランスのエマニュエル・マクロン大統領の共和国前進(アン・マルシェ!)が議席ゼロの状態から過半数を取ったという点と非常によく似ています。経験不足の新人が多数いるという点も、似ています。政策を見てみると、ポイントを外しているわけではありませんが、十分練られてはいません。

 今回はっきりしたのは、都民ファーストの会が勝ったというだけではなく、自民党が大幅に負けたということです。原因は三重苦・四重苦などと言われています。加計学園問題があり、その中で下村博文氏や萩生田光一氏との関係、あるいは稲田朋美防衛大臣や豊田真由子議員の発言などが、選挙で足を引っ張ったということでしょう。国政での失言などが都議会選挙に影響を与えた、と理解されています。いずれにせよ、自民党のつまずきは明白です。

 いつでも与党に付くのかという批判もありますが、公明党は与党に付きました。民進党は議席を減らしました。あるいはむしろ、民進党から都民ファーストの会に移った人もかなりいるでしょう。維新の会は東京では議席を取れず、1議席だけでした。

 こう見ると、予想通りの結果です。公明党を加えて、過半数は超えるだろうと見られていました。無所属で、後から公認された6人を含めて、55名です。ただし、経験不足の人がたくさんいるという問題があります。


●二元代表制という表現は正しくない

 第2に、二元代表制において、知事が党を持ち、党が圧勝すると、チェック機能が効かなくなるという批判が、選挙中にありました。しかし、私は以前から繰り返し言っていますが、そもそも二元代表制という表現は正しくありません。デュアルシステム(二元制)はフランス政治がその代表です。大統領と首相が別々にいて、議会の多数から首相を選ぶのが、慣行となっています。これがデュアルシステムです。

 しかし、日本の地方自治体には、首相に相当する職はありません。単なる大統領制、もしくは準大統領制です。議会の役割は最も重要ですが、これを明確に理解している人はあまりいません。


●議決権の行使が議会の役割だ

 例えば、なぜマクロン大統領は国民議会で多数を取ろうとしたのか、ということを考えてみてください。韓国の文在寅氏は大統領選で勝ちましたが、議会の過半数を握ってはいません。しかも、3分の2を議決要件としているものが多くあります。したがって、文大統領は、ほとんど政策が実行できないということになります。このように、政策の実行という観点からいえば、自分を支持する党を持ち、多数派を握るということは、どこの国でも必要条件です。

 さらに、地方自治体の場合、議会での採決は通常は過半数の賛成が必要ですが、知事・首長は議会の議決に対する拒否権を持っています。否決されれば、再議という制度があります。再議で可決するためには、3分の2の賛成が必要です。したがって、知事側・首長側は、常に最低限3分の1の議席を確保していなければ、政権運営はぼろぼろになり、何もできなくなってしまいます。この仕組みはかなり厄介で、地方自治体でもこれを理解していない人はかなり少ないと思います。

 都議会が持っているのは議決権です。議決権を行使することによって、知事側から情報を獲得することができます。情報がなければ、議決できないからです。都民に代わって、知事や官僚からもっと情報を出させ、都民にオープンにし、議決の理由を明らかにするということが、説明責任です。

 こうした議会の役割を理解する人を、もっと増やす必要があるでしょう。議会の議員は、マニフェストの中に、あたかも政策が実行できるかのようなことを書きますが、しかし一人で議決はできません。会派であっても、多数を握ることができるのかが問題です。こうしたことを抜きにした議論は、自治体における議会選挙では意味がありません。


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