ポスト・モスルの中東情勢
この講義の続きはもちろん、
5,000本以上の動画を好きなだけ見られる。
スキマ時間に“一流の教養”が身につく
まずは72時間¥0で体験
モスル陥落で終焉が近づくイスラム国の今後
ポスト・モスルの中東情勢(1)ISはこのまま消えるのか
政治と経済
山内昌之(東京大学名誉教授/歴史学者/武蔵野大学国際総合研究所客員教授)
2017年7月10日、イラクのアバディ首相は、モスルがIS(イスラム国)の支配から解放されたことを宣言した。未曾有のテロ組織ISは明らかに弱体化しつつあり、中東情勢に新たな局面が開かれたことは間違いない。ISの暴虐は、このまま鳴りを潜めるのか。中東・イスラーム史研究の第一人者である歴史学者・山内昌之氏に今後の見通しをうかがってみた。(全2話中第1話)
時間:9分50秒
収録日:2017年7月21日
追加日:2017年8月16日
カテゴリー:
≪全文≫

●モスル陥落後のISの挙動はどうなっていくのか


 皆さん、こんにちは。ご無沙汰しています。最近イラクでIS(イスラム国)の拠点モスルが陥落したことにより、中東情勢は新しいフェーズに入りました。

 ロシアとイラン優位のシリア和平プロセス、あるいはシリアの戦争に加えて、イラク政府軍によるIS支配下のモスル奪還(解放)、そしてサウジアラビアとカタールとの団交による湾岸協力会議(GCC)の機能不全、こうしたいくつもの複雑な要素により、中東の地政学と地域および国際政治の構造が、すこぶる不透明かつ複雑な様相を呈し始めていることはご案内の通りです。

 中でも、最近のイラクにおけるモスル陥落でISの力が大きくそがれ、偽りのカリフ国家が終焉に近づいたことは間違いないかと思われます。ISがさらにシリアの拠点ラッカを失うとすれば、「幻想の領土」を持つイスラムテロリズム国家はひとまず中東の大地から姿を消すかもしれません。

 しかしながら、それでISの犯罪的な活動が国際的に根絶されたということにはなりません。むしろ現在においても欧州、シナイ半島、アフリカ(特にアフリカのサハラ砂漠を横切る「サヘル」と呼ばれる紅海から大西洋に連なる地域)において、ISの活動はなお続いており、衰える気配がありません。


●注目すべきはISとアルカイダが対話を始めたという情報


 最近の注目すべき現象は、ISが出身母体であるアルカイダと対話あるいは政治交渉を始めたという情報です。これは、イラクの情報筋と米英の情報筋が共通して語っていることです。この対話あるいは交渉なるものが、単なる戦術レベルでの政治協力なのか、あるいは戦略レベルでの政治的な組織的合同であり、そこで新しく統一された組織やテロ戦略が出されるのか。その点は私たちには不明ですが、その行方には注意しておく必要があろうかと思われます。

 はっきりしているのは、グローバル・ジハードを目指す組織の間で将来の戦略をめぐって駆け引きや論争が始まった事実です。これは、今後の国際情勢にも、あるいは日本の将来にも無関係ではありません。

 ISとアルカイダとの大きな違いを簡単にお話ししておきましょう。ISは領土を獲得し、実質的に統治(支配)するという方策を取ります。これに対してアルカイダは、すでにある破綻国家や、一応は国連にも加盟するような独立主権国家の中に巣食います。そして、...

スキマ時間でも、ながら学びでも
第一人者による講義を1話10分でお届け
さっそく始めてみる
「政治と経済」でまず見るべき講義シリーズ
政治学講座~選挙をどう見るべきか(1)選挙の意味
選挙と政治権力…「選挙に勝つ」とはどういうことか?
曽根泰教
危機のデモクラシー…公共哲学から考える(1)ポピュリズムの台頭と社会の分断化
デモクラシーは大丈夫か…ポピュリズムの「反多元性」問題
齋藤純一
トランプ政権と「一寸先は闇」の国際秩序(1)国際秩序の転換点と既存秩序の崩壊
経済秩序や普遍的価値観を破壊し、軍事力行使も辞さぬ米国
佐橋亮
独立と在野を支える中間団体(1)「中間団体」とは何か
なぜ中間団体が重要か…家族も企業も学校も自治会も政党も
片山杜秀
グローバル環境の変化と日本の課題(1)世界の貿易・投資の構造変化
トランプの動きを止められるのは?グローバル環境の現在地
石黒憲彦
デジタル全体主義を哲学的に考える(1)デジタル全体主義とは何か
20世紀型の全体主義とは違う現代の「デジタル全体主義」
中島隆博

人気の講義ランキングTOP10
海底の仕組みと地球のメカニズム(1)海底の生まれるところ
地球上の火山活動の8割を占める「中央海嶺」とは何か
沖野郷子
「集権と分権」から考える日本の核心(5)島国という地理的条件と高い森林率
各々の地でそれぞれ勝手に…森林率が高い島国・日本の特徴
片山杜秀
未来を知るための宇宙開発の歴史(9)宇宙開発を継続するための国際月探査
「国際月探査」とは?アルテミス合意と月探査の意味
川口淳一郎
経験学習を促すリーダーシップ(1)経験学習の基本
成長を促す「3つの経験」とは?経験学習の基本を学ぶ
松尾睦
トランプ・ドクトリンと米国第一主義外交(1)リヤド演説とトランプ・ドクトリン
トランプ・ドクトリンの衝撃――民主主義からの大転換へ
東秀敏
ヒトは共同保育~生物学から考える子育て(3)共同保育を現代社会に取り戻す
狩猟採集生活の知恵を生かせ!共同保育実現に向けた動き
長谷川眞理子
数学と音楽の不思議な関係(3)音と三角関数とフーリエ級数
フーリエ解析、三角関数…数学を使えば音の原材料が分かる
中島さち子
第2の人生を明るくする労働市場改革(1)日本の労働市場が抱える問題
シニアの雇用、正規・非正規の格差…日本の労働市場の問題
宮本弘曉
外交とは何か~不戦不敗の要諦を問う(2)外交と軍事のバランス
外政家・原敬とは違う…職業外交官・幣原喜重郎の評価は?
小原雅博
大統領に告ぐ…硫黄島からの手紙の真実(2)翻訳に込めた日米の架け橋への夢
アメリカ人の心を震わせた20歳の日系二世・三上弘文の翻訳
門田隆将