ポスト・モスルの中東情勢
この講義の続きはもちろん、
5,000本以上の動画を好きなだけ見られる。
スキマ時間に“一流の教養”が身につく
まずは72時間¥0で体験
イラクが直面するモスル解放後の三つの政治課題
ポスト・モスルの中東情勢(2)イラクは再生できるのか
政治と経済
山内昌之(東京大学名誉教授/歴史学者/武蔵野大学国際総合研究所客員教授)
ポスト・モスルの中東を考えるには、その深く重い歴史と直面する必要がある。宗教・宗派・民族によって引き裂かれた人々は、さらにその内部でも対立を繰り返しているからだ。イラクは再び平和を取り戻すことができるのか。中東・イスラーム史研究の第一人者である歴史学者・山内昌之氏にうかがってみた。(全2話中第2話)
時間:10分36秒
収録日:2017年7月21日
追加日:2017年8月19日
カテゴリー:
≪全文≫

●モスル解放は「シーア派の宗教的な勝利」なのか?


 皆さん、こんにちは。前回に引き続き、今日はポスト・モスルのISについて語ってみたいと思います。

 ISはその傲慢さと非人道的な残虐性で世の中に知られることになりました。また、この特性のため、当初は期待していたスンナ派アラブ(とくにイラク)の支持者たちも、完全に離反することになりました。イラクとシリアにおいて、こうした現象が起きていることは事実です。

 しかしながら、イラクとシリアには、もう一つ宗派対立というものがあります。スンナ派対シーア派という構造的な対立要因です。そこで、過去の怨恨や宗派的な憎悪がよみがえる限り、ISを根絶するのは大変難しいかと思われます。

 最悪の見方は、次のようなシーア派の見立てです。つまり、モスルの解放というのは、スンナ派(IS)からの解放、あるいはスンナ派の暴力や独裁からの解放、すなわち「シーア派の宗派的な勝利」だという見方です。


●ポスト・モスルにおける三つの政治課題


 私たちとしては、ポスト・モスル(モスル解放後)の政治課題について、三つ挙げておく必要があろうかと思います。

 一つ目は、スンナ派やシーア派といった宗派の違い、あるいはクルド人とスンナ派やシーア派の違いといったエスニック集団(民族)を越えたイラク国民の一体性や凝集力を、もう一度あるいは新たに育むことができるのかという点です。

 二つ目はガバナンスの問題です。つまり、イラクという国が一体となって、新しくイラク国民を再結集させ、イラク国民という認識を持つ。そこで統治のガバナンスをつくりだし、強化できるのかという課題です。

 三つ目に、国の再建や国民の再統合のためには、海外企業の投資あるいは海外の経済協力や開発協力が必要になります。そういう意味で、イラクには多くの外国の関与が必要です。この外国の利益のバランスをどのように取って、配分するか。あるいはどのように利益のバランスを取ろうと考えるのか。その計算が必要なのです。


●イラク国家が三つに分割されている現状とは


 しかし、これらはシリアと同様、なかなかに難しいのです。例えば、2014年のISのアラブ・スンナ派心臓部、すなわちイラクやシリアへの浸透によって、イラクでは同じアラブ人でありアラビア語を話していても、スンナ派とシーア派との間の対立が激化しましたし、北...

スキマ時間でも、ながら学びでも
第一人者による講義を1話10分でお届け
さっそく始めてみる
「政治と経済」でまず見るべき講義シリーズ
本当によくわかる経済学史(1)経済学史の概観
経済学史の基礎知識…大きな流れをいかに理解すべきか
柿埜真吾
独立と在野を支える中間団体(1)「中間団体」とは何か
なぜ中間団体が重要か…家族も企業も学校も自治会も政党も
片山杜秀
半導体から見る明日の世界(1)世界的な半導体不足と日本の可能性
なぜ世界の半導体不足は起きた?台湾TSMCと日本復活への鍵
島田晴雄
マルクス入門と資本主義の未来(1)マルクスとはどんな人物なのか
マルクスを理解するための4つの重要ポイント
橋爪大三郎
トランプ政権と「一寸先は闇」の国際秩序(1)国際秩序の転換点と既存秩序の崩壊
経済秩序や普遍的価値観を破壊し、軍事力行使も辞さぬ米国
佐橋亮
アンチ・グローバリズムの行方を読む(1)世界情勢の転換
強まるアンチ・グローバリズムの動きをどう見ればいいか
岡本行夫

人気の講義ランキングTOP10
ヒトは共同保育~生物学から考える子育て(1)動物の配偶と子育てシステム
ヒトは共同保育の動物――生物学からみた子育ての基礎知識
長谷川眞理子
未来を知るための宇宙開発の歴史(7)米ソとは異なる日本の宇宙開発
日本の弾道ミサイル開発禁止!?米ソとは異なる宇宙開拓の道
川口淳一郎
「集権と分権」から考える日本の核心(3)中央集権と六国史の時代の終焉
天平期の天然痘で国民の3割が死亡?…大仏と崩れる律令制
片山杜秀
数学と音楽の不思議な関係(1)だれもがみんな数学者で音楽家
世界は数学と音楽でできている…歴史が物語る密接な関係
中島さち子
睡眠から考える健康リスクと社会的時差ボケ(5)シフトワークと健康問題
発がんリスク、心身の不調…シフトワークの悪影響に迫る
西多昌規
知識創造戦略論~暗黙知から形式知へ(1)イノベーションと価値創造
価値創造において重要なのは未来から現在を見るという視点
遠山亮子
DEIの重要性と企業経営(4)人口統計的DEIと女性活躍推進の効果
日本的雇用慣行の課題…女性比率を高めても業績向上は難しい
山本勲
トランプ政権と「一寸先は闇」の国際秩序(3)これからの世界と底線思考の重要性
同盟国よもっと働け…急激に進んでいる「負担のシフト」
佐橋亮
モンゴル帝国の世界史(2)チンギス・ハーンのカリスマ性
自由な多民族をモンゴルに統一したチンギス・ハーンの魅力
宮脇淳子
睡眠と健康~その驚きの影響(1)睡眠が担う5つのミッション
寝ないとよく食べる…睡眠不足が生活習慣病を招く理由
西野精治