●中東人道支援が軍事に転用されるという誤解
私たちにとって語るべきことは、「イスラム国(IS)」の奴隷制の問題やその他たくさんあるのですが、それはまた後ほど時間があればということにします。いま必要なのは恐らく、日本とISの関係をどのようにすべきなのか、ということだと思います。
日本は簡単に言うと、こうした理屈におびえて中東人道支援をやめるべきなのか。言葉尻を捉えたり揚げ足を取るようで恐縮ですが、事実として報道され、かつNHKで党首の発言として公式に出ているので、挙げざるを得なかったのが、先ほど申した小沢一郎さんの発言です。こうした人道支援でも後方支援に当たるものだからやめるべきだという発言、あるいは、殺害の責任は全て安倍首相にあるという議論。これは既に申したように、シリア難民で困窮を極めているヨルダンをはじめとする国への人道支援が、軍事に転用されるとストレートに考え、誤解している点に間違いの根拠があるのです。
●中東の心臓部ヨルダンの困窮
ヨルダンのGDPの成長率は2009年の5.5パーセントから13年には2.8パーセントに下がり、最近の歳入はGDP比で24パーセントなのに債務は80パーセント以上に及んでいる、というのが現実です。人口630万人を抱えている国の中に、イラク人難民が40万人いて、70万人のシリア人難民も加わっている。そしてさらに増え続けている国なのです。
また、ヨルダンの位置を考えてみましょう。ヨルダンの北にレバノン、シリアがあり、東にイラクがあり、南にサウジアラビアがあり、西にイスラエルとエジプトがある。正に中東のへその緒であり、心臓部なのです。しかも、この王政国家は常に人口の70パーセントのパレスチナ人難民を抱えてきている国家です。こうした国が、中東においては安定した内政と外交を誇り、日本とも長期にわたり友好関係にあり、かつ皇室の縁においても、ハーシム王室と日本の皇室は長い間のちぎりもある。こうした王朝国が崩壊していくのは、次にサウジアラビアをはじめとするGCC(湾岸協力会議)に加盟する王朝国家へも波及していくことになります。
●中東安定のために日本の人道支援は不可欠
ということは、どういうことかと言うと、わが国における85~90パーセントにもなろうとしている中東への石油依存構造が、根底から覆されかねない、そこに結び付くわけであります。ですから、ヨルダンに安定してもらわなければ困るのですが、そのヨルダンは他ならぬ外国の直接投資も2006年のGDPの23.5パーセントから12年には4.8パーセントに下がっており、当然それはシリアとイラクの内戦による投資環境悪化のためなのです。消費者物価指数によるインフレ率も増えています。失業率が最も憂慮されており12.5パーセントですが、特に若者の失業が31パーセントにも及んでいるのです。
こうした中で私たちが何を成し得るかということを、自分たちの行為として考えなければなりません。簡単に申しますと、シリアに対する支援を欠くことは難しいということになります。
●日本のIS問題を二局面から考える
IS問題と日本の政局に関しては、二つの問題点があります。人質の拉致問題に対する日本政府の対応が適切だったかどうかということです。安倍首相の中東歴訪のタイミングと支援の表明のタイミングがテロを誘発したという、小沢一郎氏的な見方にくみするか、あるいは、テレビジャーナリズムや新聞報道の一部におけるそのような見方でいいのか、ということです。
二番目には、ジャーナリズムの問題ですが、最近でも新潟県のフリーのカメラマンの渡航に際して外務省が制限を加え、旅券を回収したという行為をどう考えるかです。つまり退去勧告と一番高いレベルの渡航禁止という制約を課せられた条件を無視しても、ジャーナリストは無制限に自由が保障されるのか。そのようなジャーナリストがいざ拉致や誘拐となった場合に、政府が救出するのが当然の義務と考えるのか否かという問題です。もし義務と考えるのなら、日本政府が情報を体系的に収集するなりそういう部局をつくる、あるいは救出を可能にするような自衛隊法の改正や、関連の法律の成立など、そのようなことまで本当に踏み込むことを覚悟して、報道の自由と権利云々といったことを言っているのか。
われわれ学者もジャーナリストと同じです。今やあちこちで言語や方言が消え去ろうとしています。あれだけの人口移動が起きているわけですから。その聴取のために出かけていく。あるいは歴史家としてオーラルヒストリーのために、安全な地域だということでこの間、私はトルコ東部に行ってきましたが、同じようなことをシリアの中やIS周辺地域に行ってするのか。これは学問の論理やジャーナリズムの...