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IS、クルド、そして人民が中東世界を大きく変容させる

「イスラム国」と中東の変動(1)旧体制に反旗を翻す三大勢力

山内昌之
東京大学名誉教授/歴史学者/武蔵野大学国際総合研究所客員教授
概要・テキスト
歴史学者・山内昌之氏は中東の混迷状態を「大きなパラダイムシフト」と表現する。さまざまな勢力争いで中東が混戦しているというよりも、大局的にみて新旧イスラムイデオロギーの入れ代わりが、中東世界を根底から変えつつあるのだ。20世紀から21世紀にかけてのいくつかの転換点を示しつつ、中東の大変化を解説する。(シリーズ講話第1話目)
時間:15:10
収録日:2015/02/25
追加日:2015/03/06
カテゴリー:
≪全文≫

●中東の変革の核となる現象-イスラム国

 
 皆さん、こんにちは。中東情勢がますます混迷を深め、かつ、今後の情勢の展開が複雑さを増してきています。私は、中東の情勢を考えるにあたり、大きなパラダイム変換が起きているということ、つまり、ものを見る目の枠組みだけではなく、対象そのものが大きな変容を遂げているということを、まず大づかみに理解しないと、大局的には理解できないと考えています。イデオロギー、社会、政治、地政学、そして戦略、あるいは軍事、こうしたさまざまな領域において、世界で一番大きな変革を遂げているのは、中東であろうかと思います。

 この中でも一番印象的なのは、「イスラム国」と呼ばれる現象です。このイスラム国現象はご案内のように、シリアとイラクとの間の国境や、境界を無視することによって、新しい地域が現出したと考えてよろしいかと思います。

 日本政府は「イスラム国」というように「国」という名前を使うと、あたかも、独立国家、あるいは承認した国家のようなニュアンスがあるから使わないということで、もともとの組織名の略である「ISIL」を使っていますし、また、NHKは普通、“イスラム過激派組織「イスラム国(IS)」”というように呼ぶようです。それぞれの立場もありますので、そのこと自体は間違ってはいないのです。

 しかしながら、そういうことを言う反面、あまり窮屈に考えると、実際に起きている現象、すなわち中東においてこのIS(ISIL)が支配し、彼らが君臨している地域が、イラクとシリアのまたがる砂漠地域を中心に厳然と存在しているという現実から目を背けるということも許されないのでありまして、そこに注意する必要があります。


●新イスラムイデオロギーとして発展したIS

 
 いずれにしましても、このISの発展は、最近になって急浮上したのではなく、長い間の変化の結果だということを見ておかなければなりません。イデオロギーのレベルで申しますと、古いアラブ社会主義、あるいは社会主義へのアラブの道といったナーセル(アラブ連合共和国初代大統領)時代の社会主義的な現象、これが消滅する、あるいは古ぼけてくる。それから、パン・アラブ主義、汎アラブ主義や愛国主義というようなイデオロギーが衰える。それによって残された真空が、新旧のイスラム主義、新しい種類であれ古い伝統的なものであれ、ともか...
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