●中東構造、三つの大きな変動
前回、お話したようなことを踏まえてみますと、中東全体で大きな変動が起きているというように考えてよろしいでしょう。
その第一は、これまで20世紀において中東における最も重要な政治的な焦点とは、アラブとイスラエルとの間の紛争、すなわちパレスチナ問題を核としたアラブ・イスラエル関係でした。しかし、パレスチナにとっては誠に残念なことに、パレスチナ自身の中においても、ファタハを中心とする自治政府と、ガザのハマスの地方権力との間の対立があるということも相まって、パレスチナ問題が国際的な関心から大きく後退するようになってきたということです。
二つ目は、1980年のイラン・イラク戦争以降顕著になった、スンナ派対シーア派という対立関係が深まってきたということです。これは、さらにアラブの穏健派の国々対急進的な国々、あるいはシーア派のイランといった急進的なイスラム国家との対立という構造をつくり出したわけです。
三つ目の構造は、「アラブの春」によって顕著になった、アラブ各国の中の国内対立です。
20世紀は、パレスチナ問題こそが中東の中心で、世界の耳目を集めており、クルドの問題は影が薄かったのです。しかし、20世紀から21世紀にかけて、パレスチナ問題とクルド問題との間に、隠れた変化が生じました。それは、自分たちの国家を持たない、世界でも最大の民族集団であるクルド民族が、20世紀は無視されてきたにもかかわらず、いまやアメリカを含めてメディアや政治家、そして研究者たちの重要な関心の焦点になってきたということです。
●劇的に変化した中東の同盟・協力関係
私が言いたいことは、つまり、一部において存在していた中東の同盟関係や協力関係が劇的に変化したということです。一番顕著なのは、トルコとイスラエルとの間にあった、特に国防軍を中心としてつくられていた同盟関係が崩壊したということです。トルコのレジェップ・タイイップ・エルドアン大統領という、すこぶるイスラム主義的な装いの強い政権と、外相だったアフメット・ダーヴトオール現首相に象徴されるようなイスラエルに反発するアラブへの接近外交。そうしたことにより、トルコとイスラエルの間の同盟、友好関係は崩壊したのです。
もう一つは、エルドアン大統領とシリアのバッシャール・アル=アサド大統領との間にあ...