日本の薬剤費と医療制度改革を考える
この講義の続きはもちろん、
5,000本以上の動画を好きなだけ見られる。
スキマ時間に“一流の教養”が身につく
まずは72時間¥0で体験
「高額新薬」登場で考える日本の医療制度の問題点
日本の薬剤費と医療制度改革を考える
政治と経済
伊藤元重(東京大学名誉教授)
医療制度の改革について、議論が盛り上がっている。とりわけ医療費に相当の割合を占める薬剤費については、近年の「高額新薬」の登場が国民皆保険を圧迫することが指摘され、注目を集めている。画期的な難病治療新薬を保険導入するためには、保険医療の現状をさまざまに見直す必要がありそうだ。学習院大学国際社会科学部教授の伊藤元重氏に、論点を整理していただいた。
時間:15分58秒
収録日:2017年7月25日
追加日:2017年8月22日
≪全文≫

●難病に画期的で高価な新薬の開発と保険制度


 日本の医療制度の改革について、いろいろな話題が盛り上がっています。とりわけ薬については重要な議論が今、進行しています。なぜ重要かというと、薬が医療費に占める割合そのものが大きいことももちろんですが、それがかなりのスピードで膨れ上がってきたことも、世の中の注目を集めていると思います。

 日本の薬の制度のあり方について、真剣に考えるきっかけになった出来事が一つあります。あるコンサルタントが私のところへ来て、「こういう薬があるのです」と、ある薬のことを紹介してくれたのです。

 その時の話を正確に再現できるかどうか自信はないのですが、次のような話でした。神経や筋肉がうまく機能しなくなる難病があるらしい。筋萎縮症のようなものだろうと思うのですが、生まれたときから先天的に筋萎縮する病気があって、これまでは治療不可能な難病と言われてきました。生後すぐに亡くなってしまう方も大勢いらっしゃるわけですが、仮に生き残ったとしても機械につながれ、そのアシストを得ながら生命を維持していくことになります。

 ところが、この病気を80パーセントほどの割合で完治させる薬が開発されたらしいというのです。この80パーセントの意味を私が正確に理解しているかどうかは分かりませんが、おそらく10人のうち8人には効く薬ということだと思います。患者にとっては非常な朗報です。難病ですから、おそらく年間に数十名程度の患者数しか出ないわけですが、その方たちにとっては命が助かるということで、非常に画期的なニュースです。

 ところが一つ問題があって、1年間に7千万円かかるらしいのです。それだけ高い薬だということだろうと思いますが、毎年そういう難病の赤ちゃんが生まれてきますから、1年目の医療費だけでも、毎年7千万円×人数ということになります。これでも数十億の世界ですが、常識的に考えれば、なんとか助けてあげたいと思うわけです。

 ところが、どうもそのコンサルタントの方によれば、こうした難病に効く薬が次から次へ出てきているらしいのです。バイオ製剤やゲノム解析により、新しい仕様がどんどん出てくるということで、それまでは諦められていた、非常に少数の難病に対して有効に働きかける医薬品が出てきているのです。

 これらをどんどん取り入れることで、難病のために命の危険に直面している...

スキマ時間でも、ながら学びでも
第一人者による講義を1話10分でお届け
さっそく始めてみる
「政治と経済」でまず見るべき講義シリーズ
アンチ・グローバリズムの行方を読む(1)世界情勢の転換
強まるアンチ・グローバリズムの動きをどう見ればいいか
岡本行夫
トランプ・ドクトリンと米国第一主義外交(1)リヤド演説とトランプ・ドクトリン
トランプ・ドクトリンの衝撃――民主主義からの大転換へ
東秀敏
デジタル全体主義を哲学的に考える(1)デジタル全体主義とは何か
20世紀型の全体主義とは違う現代の「デジタル全体主義」
中島隆博
グローバル環境の変化と日本の課題(1)世界の貿易・投資の構造変化
トランプの動きを止められるのは?グローバル環境の現在地
石黒憲彦
自民党総裁選~その真の意味と今後の展望
「マスコミ報道」では見えない自民党総裁選の深い意味
曽根泰教
政治学講座~選挙をどう見るべきか(1)選挙の意味
選挙と政治権力…「選挙に勝つ」とはどういうことか?
曽根泰教

人気の講義ランキングTOP10
数学と音楽の不思議な関係(4)STEAM教育でつくる喜びを全ての人に
世界で最もクリエイティブな国は? STEAM教育が広がる理由
中島さち子
続・日本人の「所得の謎」徹底分析(2)政府債務と預金残高の背景
なぜ日本の所得水準は低いのに預金残高は大きいのか
養田功一郎
経験学習を促すリーダーシップ(2)経験から学ぶ力
米長邦雄のアンラーニング、弟子の弟子になってV字成長
松尾睦
「集権と分権」から考える日本の核心(5)島国という地理的条件と高い森林率
各々の地でそれぞれ勝手に…森林率が高い島国・日本の特徴
片山杜秀
外交とは何か~不戦不敗の要諦を問う(1)著書『外交とは何か』に込めた思い
外交とは何か…いかに軍事・内政と連動し国益を最大化するか
小原雅博
未来を知るための宇宙開発の歴史(9)宇宙開発を継続するための国際月探査
「国際月探査」とは?アルテミス合意と月探査の意味
川口淳一郎
第2の人生を明るくする労働市場改革(1)日本の労働市場が抱える問題
シニアの雇用、正規・非正規の格差…日本の労働市場の問題
宮本弘曉
戦前日本の「未完のファシズム」と現代(8)満州事変と世界大恐慌
「100年戦争」と考えて戦争に突入した日本の現実
片山杜秀
弥生人の実態~研究結果が明かす生活と文化(1)弥生時代はいつ始まったのか
なぜ弥生時代の始まりが600年も改まった?定説改訂の背景
藤尾慎一郎
海底の仕組みと地球のメカニズム(1)海底の生まれるところ
地球上の火山活動の8割を占める「中央海嶺」とは何か
沖野郷子