GDP統計から読み取る日本経済の課題
この講義の続きはもちろん、
5,000本以上の動画を好きなだけ見られる。
スキマ時間に“一流の教養”が身につく
まずは72時間¥0で体験
GDP統計にみる日本財政の課題と解決への道
GDP統計から読み取る日本経済の課題(1)戦略的な財政改革
伊藤元重(東京大学名誉教授)
学習院大学国際社会科学部教授の伊藤元重氏がGDP統計の数字から、日本の経済、財政の課題を読み取り、解決への道を論じる。日本の財政は債務、赤字、社会保障費という三重苦を抱えているが、マクロデータで見るとその財政赤字のGDP比は米英より低いことに伊藤氏は着目。その理由を分析し、戦略的な財政改革について語る。(全2話中第1話)
時間:15分33秒
収録日:2017年7月25日
追加日:2017年9月1日
カテゴリー:
≪全文≫

●GDP統計海外部門の貯蓄投資差額で分かる各国の経常収支


 経済の研究者をやっていると、いろいろなデータを見る機会が多く、変な話ですがあまりにもたくさんのデータを見させられるので頭が混乱することがあります。しかし、非常にベーシックなデータをじっと見ていて、たまに考えさせられることがあります。

 そのようなデータの一つにいわゆるSNA統計(System of National Accounts、国民経済計算)、つまりGDP統計の中に出てくる部門別の貯蓄投資額のデータがあります。部門別というのは大きく分けて、企業部門と家計部門と政府部門に海外部門、この4つです。その部門で1年間に貯蓄がどれだけあって、その中でどれだけ投資に使われたか、その貯蓄と投資の差額、これは非常に分かりやすい言い方をすれば余剰貯蓄のようなものですが、これをGDPで割った数字が主要国間で比較されているのです。

 例えば、海外部門の貯蓄投資差額のGDPで割った数字は、日本の経常収支を表しています。日本の経常収支、ドイツの経常収支、アメリカの経常収支、あるいはイギリスの経常収支を見たければ、海外部門の貯蓄投資差額を見ればいいのです。日本はGDPに対してプラスの経常収支を持っているわけです。


●意外にも英米より低い日本の財政赤字GDP比


 私が考えさせられたのは、財政、つまり政府部門の貯蓄投資差額です。日本の貯蓄投資差額はマイナスで、いわゆる日本の財政赤字を表しているのです。つまりマクロデータにとっての財政赤字を表しており、当然日本は財政問題、大きな財政赤字を抱えているということです。これは分かっていたことではあるのですが、データを見て今さら考えてしまったのは、現時点でおそらくアメリカやイギリスよりも日本の財政赤字のGDPに対する割合が低いことです。確か、日本はGDP比3.5パーセントほどです。

 なぜこういうことを思ったのかというと、実は日本の政府は膨大な債務を抱えていますから、債務に対して利払いが働いています。それを除いた、いわゆるプライマリー・バランスの赤字を見ても、GDPで3.2あるいは3.3パーセントあるわけです。ですから、それを両方合わせたら、日本の赤字はGDPの4~4.5パーセントくらいあってもおかしくありません。実際に財政収支として時々出てくるのは、このあたりの数字なのです。


●3項目で分かる日本の財政収支の赤字幅が小さいわけ


 ところが...

スキマ時間でも、ながら学びでも
第一人者による講義を1話10分でお届け
さっそく始めてみる
「政治と経済」でまず見るべき講義シリーズ
産業イニシアティブでつくるプラチナ社会(1)「プラチナ社会」構想と2050年問題
5つの産業で「資源自給・人財成長・住民出資」国家を実現
小宮山宏
松下幸之助の人づくり≪3≫理想の政治(1)国家に経営理念があれば、もっと日本は発展する
無限の可能性に挑め…国家経営を創造し、新時代の憲法を!
松下幸之助
トランプ政権と「一寸先は闇」の国際秩序(1)国際秩序の転換点と既存秩序の崩壊
経済秩序や普遍的価値観を破壊し、軍事力行使も辞さぬ米国
佐橋亮
岸信介と日本の戦前・戦後(1)毀誉褒貶相半ばする政治家
「昭和の妖怪」岸信介の知られざる実像を検証する
井上正也
デジタル全体主義を哲学的に考える(1)デジタル全体主義とは何か
20世紀型の全体主義とは違う現代の「デジタル全体主義」
中島隆博
習近平中国の真実…米中関係・台湾問題(1)習近平の歴史的特徴とは?
一強独裁=1人独裁の光と影…「強い中国」への動機と限界
垂秀夫

人気の講義ランキングTOP10
東大ハチ公物語―人と犬の関係(1)上野英三郎博士とハチ
忠犬ハチ公で哲学する…人と犬の関係から見えてくる道徳論
一ノ瀬正樹
産業イニシアティブでつくるプラチナ社会(3)健康産業イニシアティブ実装に向けて
使えるデータで「健康のプラットフォーム」を実現しよう
小宮山宏
エンタテインメントビジネスと人的資本経営(4)エンタメで一番重要なのは「人」
変人募集中…0から1を生める人、発掘する人、育てる人
水野道訓
徳と仏教の人生論(2)和合の至りと正直
正直とは何か――絶対的存在との信頼関係の根幹にあるもの
田口佳史
クーデターの条件~台湾を事例に考える(1)クーデターとは何か
台湾でクーデターは起きるのか?想定シナリオとその可能性
上杉勇司
ショパンの音楽とポーランド(1)ショパンの生涯
ショパン…ピアノのことを知り尽くした作曲家の波乱の人生
江崎昌子
経験学習を促すリーダーシップ(1)経験学習の基本
成長を促す「3つの経験」とは?経験学習の基本を学ぶ
松尾睦
大人の学び~発展しつづける人生のために(1)「Unlearn(アンラーン)」とは何か
見方を変える!生き方を変える!そのためのアンラーン
為末大
チームパフォーマンスを高める心理的安全性(1)心理的安全性が注目される理由
なぜ今「心理的安全性」なのか、注目を集める背景に迫る
青島未佳
習近平中国の真実…米中関係・台湾問題(3)戦狼外交の戦略と思惑
戦狼外交で国際秩序に挑戦…戦術的な微笑外交で見誤るな
垂秀夫