2017年9月ドイツ連邦議会選挙の総括
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予想を大きく覆したドイツ連邦議会選挙の意味と今後の課題
2017年9月ドイツ連邦議会選挙の総括
政治と経済
曽根泰教(慶應義塾大学名誉教授/テンミニッツ・アカデミー副座長)
政治学者で慶應義塾大学大学院教授の曽根泰教氏が、2017年9月に行われたドイツの連邦議会選挙の結果について解説する。選挙の結果、反EU・反難民の立場を掲げる右派ポピュリズム政党「ドイツのための選択肢(AfD)」が第3党にまで躍進した。ドイツの選挙制度を振り返りながら、今後のドイツ・EUに対する影響について考察する。
時間:14分25秒
収録日:2017年9月28日
追加日:2017年10月11日
カテゴリー:
≪全文≫

●右派ポピュリズムがドイツにまで及んだ


 今日はドイツの連邦議会選挙の結果について、一通りの総括をします。当初は、アンゲラ・メルケル首相の続投は間違いなく、月並みで退屈な選挙になるだろうと考えられていました。しかし結果は、予想を大きく覆しました。

 「キリスト教民主・社会同盟」(CDU・CSU)は議席を減らし、CDUと大連立を組んでいる「社会民主党」(SPD)も大きく退潮しました。他方で、「ドイツのための選択肢」(AfD)が急伸し、第3党になりました。ドイツのための選択肢という党は右派です。EUの文脈でいえば、フランスの国民戦線代表のマリーヌ・ル・ペン氏やイギリスのEU離脱などと関連する問題です。右派ポピュリズムがドイツにまで及んだのかと、衝撃が走りました。しかも、前回は議席を持たなかったのに、今回は94議席も獲得し、第3党にまでなったのです。これは大変ショッキングなことでした。

 そこで、なぜこのような事態が起きたのか、ドイツの選挙制度はどのような仕組みなのかを簡単に説明してから、今回の選挙の意味や今後の課題について見ていこうと思います。


●単独で過半数を取ることは非常に難しい


 選挙後、メルケル氏は「キリスト教民主・社会同盟抜きには政権を樹立することはできない」と述べました。これは一見、勝利宣言のようにも見えますが、実際にはCDU・CSUは相対的に第1党になったにすぎません。これから連立交渉が行われます。

 ドイツでは、良かれ悪しかれ、単独で過半数を取るのは非常に難しいことです。これは、比例代表と小選挙区制が組み合わさったドイツの選挙制度に原因があります。この制度は、しばしば小選挙区比例代表併用制と呼ばれます。しかし、この訳語には理解を妨げるところがあります。日本は並立制で、ドイツは併用制だと呼ばれているから、日本とドイツは似ているのではないかと誤解されがちです。しかし、基本的にドイツは比例代表制です。

 2票制で、1票は小選挙区の候補者に、もう1票は政党に投票することになっていて、通常は比例で議席数が決まり、小選挙区での当選者を順番に割り当てていき、残りの議席を名簿から選びます。ところが、小選挙区の当選者の数が比例で獲得した議席よりも多い場合、超過議席が発生します(つまり比例で獲得した議席数ではなく、小選挙区の当選者全員の議席数が確保される)。ここにドイツの選挙制度の...

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