●ヤマトの配送パンク状態とアマゾンの関係を考える
「ラスト・ワンマイル」という言葉を聞いたことがある方もいらっしゃるかと思います。今、クロネコヤマトの配送がパンク寸前になっています。これをどうにかしなければいけないという雇用上の問題もありますし、配送業にばかり負担をかぶせているという問題もあります。さらに、原因の一つとなっている、大口契約者のアマゾンとの契約をどうするかという問題もあります。
私は最晩年の小倉昌男氏(「クロネコヤマトの宅急便」創始者)と親しくしていて、小倉氏からお聞きした話をテンミニッツTVの中でもいろいろと紹介してきました。小倉氏のボランティア活動であるヤマト福祉財団のお話が中心でしたが、経営の話も若干は聞いています。小倉氏には『経営学』という大変いい本がありますので、そちらをご覧になっていただきたいと思います。
●アマゾンはなぜ「配送料無料」ビジネスができるのか?
さて、日本のアマゾンの代表であるジャスパー・チャン氏(アマゾンジャパン代表取締役社長)と会ったときに、私は「自分だったら、アマゾンがやっていることはしませんよ」と言いました。
どういうことかというと、当時配送センターは8カ所だったのですが、それを全国に整備するため、投資して大量の在庫を抱えなければならないという状況だったので、その上さらに「配送料無料」という無謀なことは「私はしません」と言ったわけです。その頃は、今のようなプライム会員限定ではなく、一般に配送料は無料でした。では、なぜアマゾンはそんなことができたのか。それが一つの疑問になると思います。
それから、アマゾンは一体どんな会社なのか。多くの人は、本を売って、全国に配送して、儲けているのではないかと思っているのでしょうが、クラウド・コンピューティングの世界の図をご覧になっていただくと分かると思います。アマゾンは、クラウド・コンピューティングの代表選手なのです。グーグル以上に、世界中にサーバーを持って、クラウド・コンピューティングで稼いでいます。そこを頭に置いた上で、日本の配送システムのことをお話ししようと思います。
●これほどやっても顧客満足度の上がらない日本の要求水準
チャン氏は、「アマゾンのアメリカでの顧客満足度は非常に高い。それに比べると、日本では一番にはならない」と言っていました。
この頃にはもう佐川急便からヤマト運輸へ配送業者が替わっていたと思いますが、あれだけ時間指定をした配送をしても、日本では顧客満足度はそれほど高くならない。つまり、日本人が求めるサービスのクオリティは猛烈に高いのです。クロネコヤマトとFEDEXを比較したら、比べようもないほどですが、そこまでやっても日本人の顧客満足度は一番にはならないという問題があります。
これは、サービス産業の生産性の低さの問題を考えるときに重要な点です。しばしば日本のサービスセクター、特に地方における旅館や飲食店などの生産性の低さがいわれますが、私は、日本とアメリカで同じサービスが行われているときに初めて比較ができるのだろうと思うのです。これについて、私はアマゾンの他に、ディズニーランドの社長にも聞いたことがあります。
「日本人の求める水準は高い。アメリカと同じことをやったのでは、日本人は満足しません」というのが、答えでした。これで、日本人の要求水準が高すぎるのは分かりました。高すぎたら下げるか、あるいはこれに価格を乗せるかしかありません。ここは、難問です。
●アマゾンのスピードは、顧客が求めているサービスなのか?
もう一つ、小倉氏とお話をしたときに、彼がよく言っていたことです。
「同業他社(名指しはされませんでした)のように、配送業務の末端であるラスト・ワンマイルを、他の業者に外部委託したり、アルバイトに任せたりする、ということは、うちの会社はしません。そここそが一番重要で、そここそが利益の源なのです」
たしかに、配送のルート、あるいはどこの家に誰がいるということや生活パターンなどが頭に入っていれば、配送は速くなります。そこは、クロネコヤマトの強みでした。
ただし今、配送においてクオリティが高くなったといいます。たしかに時間指定はできるし、時には朝頼むと夕方には届きます。都内なら、さらにもっと早い時間に届きます。でも、おそらく本などは、その日の夕方に届かなくてもいいはずです。本当にその日の夕方に届かなくてはいけないのは、赤ちゃんのミルクや医薬品だったりするでしょう。あるいは時々プリンターのインクがなくなって、これがないと大量のプリントができないというとき、夕方に届くとありがたいことはあるかもしれません。ただ、どんなものでもその日のうちに、あるいは翌朝に届けるというのは良いこと...