●読めない大統領選の要因1―進む分極化
アメリカ大統領選挙はアイオワ州コーカス地区、それからニューハンプシャー州のプライマリー(予備選挙)を前にして、依然読めない状況になっています。序盤のアメリカ大統領選挙はどうなるのだろうかということを、少しお話ししてみたいと思います。
(その前に)オバマ政権の評価ですけれども、比較的経済指標はいいのですが、国民の認知としては非常によくない、つまり悪いのです。ですから、指標がよければ選挙で勝てるだろう、強いだろうというのは正しいわけではなく、政治の世界では、経済の指標があってもそれが認識されていて支持率が高いかどうか、つまり、(国民が)経済的に満足しているかどうかというのが、結構重要な要素になります。
もう一つ、民主党でいえば、ヒラリー・クリントンの人気が今一つないという点が挙げられます。クリントンの話は、以前にこの10MTVシリーズでお話をしたことがありますから(「ヒラリー・クリントン氏出馬表明~2016米大統領選」2015年4月配信)、今日はお話ししませんが、そのときは、アメリカ政治のいくつかの要素について申し上げました。今回はそこにもう一つ要素が加わって読みにくくなっているということを申し上げたいと思います。
アメリカ政治はかつて、共和党右派であっても寸止めができていたのです。しかし、アメリカ政治で寸止めが効かないガチンコをしてしまうと、ガバメント・シャットダウン(政府閉鎖)の問題などが出てくる。テッド・クルーズなどは、それを仕掛けていたところがあるわけですけれども、アメリカはこういう対立状況、分極化が進んできたということです。
●読めない大統領選の要因2―トランプ現象
もう一つあります。大統領選挙になると、イデオロギー的に、かつての民主党は左派が強く、予備選挙では左派の候補が勝つのだけれども、本選挙になると中道的な候補に敗れると言われていました。一方、最近でいえば、共和党は右派的な候補が予備選挙で勝つのだけれども、本選挙では勝てないと言われています。ここまで申し上げました。
しかし、今回起きている「トランプ現象」というものは、一体何なのか。これは、同じ分極化でも、寸止めができない右派とか、あるいは、大統領選挙における予備選挙と本選挙の違いとか、そういうレベルではないのです。PC(ポリティカル・コレクトネス)、要するに政治的に発言してはいけないことがあり、日本で言う放送禁止用語に非常に近いのですが、そのPC違反を、ドナルド・トランプは連発しているわけです。特に移民に関しては、メキシコとの間に壁をつくってしまえとか、壁をつくった費用はメキシコに持たせるというようなことを言っています。あるいは、難民、もしくは、イスラム系の人をアメリカに入れるな、など、特に人種、移民などに関してPCを連発しているのです。この種の失言があったら、一気に政治の世界から消える、抹殺されるのが普通ですが、依然人気が衰えない。特に白人、そして、若干所得の低い層などが拍手喝采している。このあたりの「トランプ現象」というものをどう理解したらいいのか。
今回、トランプだけではなく、バーニー・サンダースという民主党の議員が、社会主義者と自らを名乗りながら クリントンに肉薄して、アイオワ州、あるいはニューハンプシャー州でかなりの数字を取っているという事実もあります。こういった分かりにくさ、つまり両極がいるのです。それが比較的支持を持たれるというのは、何なのかということです。
●エンターテイナーのトランプを凌ぐ候補がいないという現実
トランプに関しましては、イデオロギー的にゴリゴリの右かというと、そうでもない。特に移民問題に対する発言もそうですが、総じてあまり政治経験がないし、知識も乏しい。つまり、知事をやったことがなければ、上院議員をやった経験もない。ニューヨークの不動産業を中心としたビジネスでは成功しているのですが、全て成功しているわけではなく、アトランティックシティではおそらく失敗していると思います。ただ、大金持ちであることは確かです。けれども、日本の批判をしていますが、日米貿易摩擦時代の話を持ち出してきてアメリカの雇用が奪われるなどという話をしていますので、少し情報が古いという感じがします。加えて、TPPもよく知らず、中国が入っていると思い込んでいるところもあります。
ですから、普通ならばブレーン、あるいはチームの中に国際政治や経済問題に詳しい有識者が入り込むのですが、トランプにはどうもそのあたりのブレーンが見えないというところに、特徴があるといえます。
問題は、共和党の中で候補者がたくさんいるにもかかわらず、いまだにトランプを凌ぐ人がいないということです。クルーズに...