●ヒラリー・クリントンの武器となる豊富な経験
ヒラリー・クリントン氏が、民主党候補として大統領に立候補することを発表しました。このヒラリー氏の立候補については、さまざまな解釈が可能です。
一つは、なぜこんなに早い時期から、アメリカでは選挙が始まるのかということです。選挙は来年の初めではなく、来年の後半です。ですから来年11月の選挙まで1年半ぐらい選挙戦が戦われます。その理由の一つは、アメリカのプライマリー(予備選挙)などが、かなり前倒しになっているからです。もっとも、アイオワ州はコーカス(党員集会)から始まりますが。予定が前倒しになり、だんだん早め早めになっています。初戦を制するとプライマリーを制することができるので、早くから手を打つという傾向があるのです。
ですが、この予備選挙というのが、非合理極まる制度なのです。例えば、アイオワ州のコーカスやニューハンプシャー州のプライマリーなどでは、かなりの数の候補者が脱落していきます。となると、これらはアメリカにとって必要な大統領が本当に選べる制度なのかという疑問は湧いてきます。
とはいえアメリカの感覚で言えば、この大統領選挙というのは、4年に1度ある、一種のお祭りです。なおかつ政党政治とは言うけれども、アメリカでは大統領選挙をきっかけにして、政党らしきものが固まるのです。各州にはそれぞれの政党がありますが、全国規模の政党となると、大統領選挙において求心力を得るしかないということになります。
では、なぜヒラリー氏が立候補したのか。これについてはいろいろな議論があります。一つは、ヒラリー氏の豊富な経験です。オバマ大統領は、日本で言われているほど駄目なわけではないのですが、彼に対する失望の背景に経験不足があったわけです。それに対して安心感ということで言うと、ヒラリー氏は良きにつけ悪しきにつけ経験があるため、有権者に安心感を持たせることができます。これまでのことを考えれば、この程度のことはしてくれるのではないか。経験不足によって判断ミスが起きるということもないのではないか。彼女はこのように思われています。
ですがこれを裏返せば、ヒラリー氏は代わり映えのしない人ということですね。そのため、「代わり映えしない高齢の女性」というイメージを、どうやって払拭するかが、今度の選挙戦の一つの中心になるのです。そういう意味で、比較的中道で、庶民の感覚や目線というところへ有権者の関心を持っていくということが、立候補表明の一つの理由です。
●「初の女性大統領」として何をキャンペーンするか
もう一つは、選挙そのものの特徴です。前回は黒人と女性でした。初の黒人大統領なのか、それとも初の女性大統領なのかという戦いだったわけです。少なくとも民主党のプライマリーではそうでした。今回、民主党はおそらく、初の女性大統領を全面的に売りに出します。
その女性であることを、どのように訴えていくのかですが、これも極端なフェミニスト寄りの発言は避け、リベラルの中でも中道リベラル的な、もっと幅の広い主張をするでしょう。マイノリティ問題や人権問題といった、かなり広い範囲の中で女性を位置付けるのだろうと思います。どちらかと言うとアメリカは、選挙の時に社会争点が効いてくる国です。マイノリティや女性問題、同性婚、人種、あるいは所得、環境、地域などの問題について、アメリカは有権者の社会属性で投票傾向がかなり読める国なのです。ここが日本と違うところです。
また、例えば外交や社会保障といった社会政策については、オバマ大統領が抱える問題もありますが、基本的にヒラリー氏は、オバマ大統領のラインの延長で政策を行うと思います。ただ、オバマ大統領と同じというように見られたのでは票は増えませんから、古いヒラリー像、安心できるヒラリー像だけでも、選挙は戦えません。ではどういうイメージを出すのかということになります。
彼女の弱点というのは、実は高齢であるということです。若い時のヒラリー氏は、ものすごく頭の切れる女性政治家というイメージでした。それを知っている人にとっては、現在のヒラリー氏は、かなり高齢だという印象があるのです。そのため、そこがあまり目立たないようなキャンペーンを、たぶんしてくると思います。
●アメリカの政治文化の中で共和党は問題を抱えている
それからもう一つは、日本とアメリカの政治文化の違いです。始めから民主党が強い州があるので、その州を押さえるという戦略は基本なのですが、さらに最終局面で、共和党になるか民主党になるか分からないというスイング・ステートを今後取りに行けるのかが最終的には問題になってくると思います。
例えばわれわれが学者の人と接触すると、東部のアイビー・リーグの人たちは民主...