2018年頭所感
正しい知識を適切に動員する「知識の構造化」が必要な時代
2018年頭所感(1)「知識の構造化」の時代へ向けて
科学と技術
小宮山宏(東京大学第28代総長/株式会社三菱総合研究所 理事長/テンミニッツ・アカデミー座長)
東京大学第28代総長で株式会社三菱総合研究所理事長の小宮山宏氏が、2017年「ドバイ知識賞」を受賞した。小宮山氏の受賞理由は、氏が提唱してきた知識の構造化にあった。これからは新発見・新発明だけではなく、正しい知識を正しく動員することがむしろ求められる時代になっていくだろうと、小宮山氏は語る。(全2話中第1話)
時間:10分18秒
収録日:2017年12月21日
追加日:2018年1月1日
収録日:2017年12月21日
追加日:2018年1月1日
カテゴリー:
≪全文≫
●小宮山氏がドバイ知識賞を受賞した
新年あけましておめでとうございます。2018年もテンミニッツTVをどうぞよろしくお願いいたします。
私は2017年11月末に、アラブ首長国連邦のドバイ首長国より、ドバイ知識賞(正式名は「2017シェイク・ムハンマド・ビン・ラーシド・アール・マクトゥーム知識賞(Sheikh Mohammed Bin Rashid Al Maktoum Knowledge Award)」)を図らずも受賞しました。この受賞は私にとって大変嬉しいものでした。というのも、ノーベル賞に代表される表彰は一般的に、発明や発見が対象となることが多いのですが、今回の受賞では、「知識の構造化」とそれによるビジョンの提案、そしてそのビジョンに向けた行動が表彰の理由となったからです。つまり、知識に関しての表彰でした。こうしたものが表彰の対象となったのかと、時代の潮目の変化を感じて嬉しく思った次第です。
そこで今回は、この受賞とも関係しますが、現在、知識というものが世の中でどのような状態にあるのか、私の考えを述べたいと思います。
●適切な知識を適切に動員するということは極めて難しい
知識に関して確信を持っていえるのは、適切な知識を適切に使えば、私たちの課題のほとんどは解決できるということです。もちろんノーベル賞は人類の進歩にとって極めて良いことですが、そうしたことがなくても、ほとんどの問題は今までの知識を正しく組み合わせれば解決することができるでしょう。これが知識に関する私の第1の確信です。他方、逆に適切な知識を適切に動員することは極めて難しい。このことが第2の確信です。それは、あまりに知識が増えすぎたからです。
1980年代前半に、社会心理学系のある有名な学術誌に、今から思えばとんでもないというか、興味深い実験結果が報告されました。その実験は、先端的な学術誌を数誌選び、過去3年以内にそれぞれの雑誌で発表された論文を再投稿するというものです。これはある意味で非常に危険な実験です。再投稿などというものは、本来は許されませんから。
実験をしたのは、Stephen Ceci氏(コーネル大学の心理学者)のグループです。再投稿された論文のタイトルを元の論文から少し変え、著者と著者の所属も架空のものに変えました。そうしないと、検索すれば同じ内容の論文だということが簡単に分かってしまうからです。こうして、タイトルと著者、所属にお化粧をし...
●小宮山氏がドバイ知識賞を受賞した
新年あけましておめでとうございます。2018年もテンミニッツTVをどうぞよろしくお願いいたします。
私は2017年11月末に、アラブ首長国連邦のドバイ首長国より、ドバイ知識賞(正式名は「2017シェイク・ムハンマド・ビン・ラーシド・アール・マクトゥーム知識賞(Sheikh Mohammed Bin Rashid Al Maktoum Knowledge Award)」)を図らずも受賞しました。この受賞は私にとって大変嬉しいものでした。というのも、ノーベル賞に代表される表彰は一般的に、発明や発見が対象となることが多いのですが、今回の受賞では、「知識の構造化」とそれによるビジョンの提案、そしてそのビジョンに向けた行動が表彰の理由となったからです。つまり、知識に関しての表彰でした。こうしたものが表彰の対象となったのかと、時代の潮目の変化を感じて嬉しく思った次第です。
そこで今回は、この受賞とも関係しますが、現在、知識というものが世の中でどのような状態にあるのか、私の考えを述べたいと思います。
●適切な知識を適切に動員するということは極めて難しい
知識に関して確信を持っていえるのは、適切な知識を適切に使えば、私たちの課題のほとんどは解決できるということです。もちろんノーベル賞は人類の進歩にとって極めて良いことですが、そうしたことがなくても、ほとんどの問題は今までの知識を正しく組み合わせれば解決することができるでしょう。これが知識に関する私の第1の確信です。他方、逆に適切な知識を適切に動員することは極めて難しい。このことが第2の確信です。それは、あまりに知識が増えすぎたからです。
1980年代前半に、社会心理学系のある有名な学術誌に、今から思えばとんでもないというか、興味深い実験結果が報告されました。その実験は、先端的な学術誌を数誌選び、過去3年以内にそれぞれの雑誌で発表された論文を再投稿するというものです。これはある意味で非常に危険な実験です。再投稿などというものは、本来は許されませんから。
実験をしたのは、Stephen Ceci氏(コーネル大学の心理学者)のグループです。再投稿された論文のタイトルを元の論文から少し変え、著者と著者の所属も架空のものに変えました。そうしないと、検索すれば同じ内容の論文だということが簡単に分かってしまうからです。こうして、タイトルと著者、所属にお化粧をし...
「科学と技術」でまず見るべき講義シリーズ
MLBのスーパースターも一代限り…生物学から迫る性の実態
長谷川眞理子
人気の講義ランキングTOP10
ヒトは共同保育の動物――生物学からみた子育ての基礎知識
長谷川眞理子