●多様な生物の中、ヒトの特色が生んだ科学技術文明
総合研究大学院大学の長谷川です。私の研究する分野はもともと「自然人類学」という人類(ヒト)の進化からきていますので、今日は科学技術文明の姿や未来について、何百万年という非常に長い人類進化の歴史、少なくともヒト(ホモ・サピエンス)の20万年を考える立場からの疑問を投げ掛ける意味で、少し話をしてみたいと思います。
地球上には非常にたくさんの生物が進化してきました。現在知られている、つまり名前(学名)が付いているのは200万種ほどですが、それで全部ではありません。2000万種なのか、2億種なのか、オーダーも分からないほど大勢の生物がいます。それに加えて、これまでに絶滅してしまった種も膨大な数に上ります。地球上に現れた生命のうち、おそらく99パーセントは絶滅しているだろうといわれています。そのうちで現在も残り、繁栄しているのが何万種いるかは分からない状況なのです。
そうした中で、記録媒体を持ち、知識を常に改訂しながら、時間・空間を超えて仲間に伝達して、集合知というものを築いてきたのは、生物の中でおそらくヒトだけだと思われます。そうしたヒトが持つ特色や特徴が、最終的には今の科学技術文明を生んでいるわけです。
●人類進化の600万年を振り返ってみると
私は人類学者なので、人類という生物の全体としての進化を考えるわけですが、人類に一番近いのが現在のチンパンジーで、そこから分岐したのがおよそ600~700万年前の話です。
250万年前ぐらい前に私たちホモ・サピエンスと同じ「ホモ属」という種類が出てきました。その時の脳容量は900ccほどになっています。アフリカから出てきましたが、アフリカだけではなくアジアやヨーロッパなどの旧大陸にも広がりました。
ところが結局、彼らは絶滅してしまい、およそ20万年前にアフリカにいた集団から、ホモ・サピエンスという私たち自身の種が新たに出てきて、今に広がっています。
今の私たちホモ・サピエンスが出てきたのが20万年前。その私たちがアフリカを出て広がっていったのは10万年前か、あるいは9~7万年前ごろ。20万年前に出てきてすぐに広がったわけではなく、かなり後半になってから全世界に広がっているのです。
それから3万年前に芸術のようなものが出てきて、1万年前に農耕と牧畜が始まりました。そのような、非常に...