●「今の喜びがどれだけあるか」も意思決定の大きな要素
前回お話ししたとおり、人間の意志決定の心理には時間割引が働いているので、子どもを持とうとする意思決定が先延ばしされてしまうことが、少子化の非常に大きな原因だと思います。
ただ一方で、将来の喜びに対して「今の喜びがどれだけあるか」も意思決定の大きな要素となります。今は楽しみがなく、将来子どもを持つことくらいしか希望が持てない女性と、今目の前に楽しみがたくさんある女性では、将来の楽しみをどう考えるかは全然違います。
現代の先進国では、女性が自分の一生の中で、自分のキャリアを追求したり、自分をより美しくしたり、自分の生活を確実に楽しんでいます。しかし、途上国の女性たちには今もそうしたチャンスが少ないのが現実です。学校に行くこともできなければ、政治に参加することも、自分自身の財産を持つこともできない女性が数多くいます。彼女たちは今もたくさん子どもを産んでいます。
つまり、女性の地位や学歴が向上し、社会進出が進み、女性が自分自身の価値を追求していいという世の中になればなるほど、現在の楽しみが大きくなり、将来の、特に子育ての楽しさは割り引かれていくのです。
●女性の社会進出によって将来の子育ての楽しさは割り引かれていく
どの国でも、途上国のような文化・経済の発展段階では出生率が高かったけれども、(先進国になるにつれて)出生率が下がっています。社会経済的に発展して、女性の学歴が上昇して社会進出が起こると、出生率が減ることはこれまでも知られていましたが、その生物学的・脳科学的な理由は誰も説明していませんでした。女性が自己に投資して楽しい生活を送れるようになると、目の前の楽しみと将来の子育ての楽しみが比較され、時間割引が起こることは、おそらくこれまで誰も言ってこなかったのです。私は、このことが社会経済の発展によって少子化が起こる基本的な理由だろうと思います。
もちろん女性が社会進出したら仕事を一生懸命にするので、子育ての時間は減ることになりますが、そのときにもう一歩踏み込んだ質問をすると、なぜ仕事が持てるようになり、学歴を追求し、キャリアを追求することができるようになった女性は、子育てを軽く見てしまう傾向にあるのか。なぜ今の仕事を続けたいということに、より喜びを感じるのか。それは、社会経済的要...