●誰が生まれてきた子どもの世話をするのか
総合研究大学院大学の長谷川眞理子です。今日は進化生物学から見た親の配偶と繁殖、子育てを土台に、現代社会の虐待や子殺しを普通とは違った目で分析してみたいと思います。動物一般の配偶や子育ての理論的な枠組みに、人間の配偶行動、子育て行動を乗せて考えていきます。
動物は次の瞬間に何をするか、次の一歩をどう踏み出すかを常に選択し、決めなくてはなりません。その意味で、その動物がどう思っているかどうかは別として、全ての動物は意思決定者です。動物の脳は、外部のさまざまな情報を取り入れ、さらに体内の情報も参照して、今何ができるのか、何をすればうまくいくのかを、あるアルゴリズムで判断し、いくつかの選択肢から最適だろうと思われる行動を決めています。誰が生まれてきた子どもの世話をするのかということも、一種の意思決定と考えられます。
もちろん、子育てをまったくしない動物はたくさんいますし、多くの哺乳類のように雌親だけが子育てをして、雄親は何もしないという種も普通にあります。また、受精卵が雌の体から産み落とされて、目の前に卵がある場合、雌だけでも雄だけでも育てることができます。そこで雌がどこかに行ってしまえば、雄親が育てるのです。魚やカエルなどでそうしたケースがよく見られます。両親がともに子育てをするのは、スズメやツバメなどの鳥で有名ですが、キツネやタヌキなど哺乳類の一部にもいます。それから、これは以前にテンミニッツTVでお話ししましたが、親だけでなく、血縁があってもなくても周囲の個体が一緒に子育てをする、共同繁殖の種が少しだけ存在します。
●ごく一部の動物だけは自分の子どもを殺すことがある
自分の子どもを殺すという行動は、生物学的にはあまり見られません。なぜなら、わが子を殺してしまうことは、自分の遺伝子の継承者を消してしまうことだからです。ただし、よその子を殺すことはしばしば起こります。よその子は自分の遺伝子とは無関係ですから、自分や自分の子とコンフリクトすれば、殺してしまうのです。
例えば、ライオンの雄は群れを乗っ取ったときに、前のライオンの雄が残した個体を全てかみ殺してしまいます。同じように、サルも一夫多妻の雄が追い出されて、新たな雄が妻たちの中に収まるとき、新たな雄は前の雄が残した乳児を殺してしまいます。それは、...