進化生物学から見た少子化問題
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子どもの虐待の問題はどうしたら解決するのか?
進化生物学から見た少子化問題(2)現代の虐待リスク
科学と技術
長谷川眞理子(日本芸術文化振興会理事長/元総合研究大学院大学長)
「虐待はしてはならない行為だ」「母親なのになぜ虐待するのか」「虐待をする母親には人権の意識がない」などと言っても、子どもの虐待の問題は何も解決しないと、総合研究大学院大学理事で先導科学研究科教授の長谷川眞理子氏は言う。では、いったいどうしたらいいのか。なぜ虐待は起こるのか。長谷川氏が進化生物学の見地から語る。(全5話中第2話)
時間:19分09秒
収録日:2016年11月25日
追加日:2017年3月17日
≪全文≫

●避妊、堕胎、嬰児殺、捨て子と虐待やネグレクトは一連


 前回、共同繁殖のところでも少し話をしたと思いますが、ヒトは何でもいいから子どもをつくれば、その子どもがすくすく育つという生き物ではありません。子育ては大変なのです。ですから、ある男と女が惚れ合って性行為をした後、受胎から、妊娠、出産、その後に長く続く子育てまでの全ての段階で、親が「この子育てはうまくいかないかもしれないからやめたい」と思う可能性が出てくるのです。

 前回のレクチャーでも説明した通り、共同体が認めないような男女の関係はたくさんあります。普通は、共同体が認めないことが分かっているから不倫をしないようにするし、別の部族の男との行きずりの関係などをしないようにするわけです。しかし、一方でヒトはいつ惚れるかどうか分かりませんから、そういう関係はどうしてもできてしまいます。もちろんそうしたとき避妊はどうかというと、かつて伝統的に長い間、避妊行為は確かなものではなく、どうしても受胎してしまう可能性がありました。また、受胎をしても堕胎(中絶)することはできるのですが、その場合、近代の医療が発達するまでは(母体にとって)危険で、その成功率も低かったのです。

 そこで、9カ月の妊娠期間ののち、生まれてきてから「育てられない」として嬰児殺をすることがよくあったのです。殺さないにしても、捨て子をするという選択肢を選ぶ人が数多くいました。事実、ルネサンス時代のヨーロッパの教会にはたくさんの捨て子養育院があったのです。

 嬰児殺もせず、捨て子にもせずに子育てを始めたけれども、やはり子育てがうまくいかないというときに、子どもをかわいがろうとするスイッチが入らず、虐待やネグレクトが始まると思います。その意味で、避妊、堕胎(中絶)、嬰児殺、捨て子と、虐待やネグレクトは、人の子育てにおける長い時間の中でどの時点で「それは良くない」と思ってやめるかという判断において一連のことなのだと考えた方が良いと思います。


●昔からの嬰児殺の3つの理由は、現代社会でも当てはまる


 「物理的な資源がない」「身体的に弱く生き残れそうにない」「共同体が認めてくれそうにない」という昔からの嬰児殺の3つの理由は、現代社会でも同じように当てはまります。つまり、お金や職がない、子どもに障害や疾患がある、片親や継父・継母であるという理由で、虐待...

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