進化生物学から見た少子化問題
この講義は登録不要無料視聴できます!
▶ 無料視聴する
この講義の続きはもちろん、
5,000本以上の動画を好きなだけ見られる。
スキマ時間に“一流の教養”が身につく
まずは72時間¥0で体験
子どもの虐待の問題はどうしたら解決するのか?
進化生物学から見た少子化問題(2)現代の虐待リスク
科学と技術
長谷川眞理子(日本芸術文化振興会理事長/元総合研究大学院大学長)
「虐待はしてはならない行為だ」「母親なのになぜ虐待するのか」「虐待をする母親には人権の意識がない」などと言っても、子どもの虐待の問題は何も解決しないと、総合研究大学院大学理事で先導科学研究科教授の長谷川眞理子氏は言う。では、いったいどうしたらいいのか。なぜ虐待は起こるのか。長谷川氏が進化生物学の見地から語る。(全5話中第2話)
時間:19分09秒
収録日:2016年11月25日
追加日:2017年3月17日
≪全文≫

●避妊、堕胎、嬰児殺、捨て子と虐待やネグレクトは一連


 前回、共同繁殖のところでも少し話をしたと思いますが、ヒトは何でもいいから子どもをつくれば、その子どもがすくすく育つという生き物ではありません。子育ては大変なのです。ですから、ある男と女が惚れ合って性行為をした後、受胎から、妊娠、出産、その後に長く続く子育てまでの全ての段階で、親が「この子育てはうまくいかないかもしれないからやめたい」と思う可能性が出てくるのです。

 前回のレクチャーでも説明した通り、共同体が認めないような男女の関係はたくさんあります。普通は、共同体が認めないことが分かっているから不倫をしないようにするし、別の部族の男との行きずりの関係などをしないようにするわけです。しかし、一方でヒトはいつ惚れるかどうか分かりませんから、そういう関係はどうしてもできてしまいます。もちろんそうしたとき避妊はどうかというと、かつて伝統的に長い間、避妊行為は確かなものではなく、どうしても受胎してしまう可能性がありました。また、受胎をしても堕胎(中絶)することはできるのですが、その場合、近代の医療が発達するまでは(母体にとって)危険で、その成功率も低かったのです。

 そこで、9カ月の妊娠期間ののち、生まれてきてから「育てられない」として嬰児殺をすることがよくあったのです。殺さないにしても、捨て子をするという選択肢を選ぶ人が数多くいました。事実、ルネサンス時代のヨーロッパの教会にはたくさんの捨て子養育院があったのです。

 嬰児殺もせず、捨て子にもせずに子育てを始めたけれども、やはり子育てがうまくいかないというときに、子どもをかわいがろうとするスイッチが入らず、虐待やネグレクトが始まると思います。その意味で、避妊、堕胎(中絶)、嬰児殺、捨て子と、虐待やネグレクトは、人の子育てにおける長い時間の中でどの時点で「それは良くない」と思ってやめるかという判断において一連のことなのだと考えた方が良いと思います。


●昔からの嬰児殺の3つの理由は、現代社会でも当てはまる


 「物理的な資源がない」「身体的に弱く生き残れそうにない」「共同体が認めてくれそうにない」という昔からの嬰児殺の3つの理由は、現代社会でも同じように当てはまります。つまり、お金や職がない、子どもに障害や疾患がある、片親や継父・継母であるという理由で、虐待...

スキマ時間でも、ながら学びでも
第一人者による講義を1話10分でお届け
さっそく始めてみる
「科学と技術」でまず見るべき講義シリーズ
進化生物学から見た「宗教の起源」(1)宗教の起源とトランス状態
私たちにはなぜ宗教が必要だったのか…脳の働きから考える
長谷川眞理子
「宇宙の創生」の仕組みと宇宙物理学の歴史(1)宇宙の階層構造
「宇宙の階層構造」誕生の謎に迫るのが宇宙物理学のテーマ
岡朋治
ヒトの性差とジェンダー論(1)「性」とは何か
MLBのスーパースターも一代限り…生物学から迫る性の実態
長谷川眞理子
航空機事故ゼロをめざして(1)フラッター現象とは何か
零戦の開発段階で起きたフラッター現象…事故の教訓とは
鈴木真二
「海の哺乳類」の生き残り作戦(1)分類と海牛目の特徴
「海の哺乳類」が海の中で行った「生き残り作戦」とは
田島木綿子
未来を知るための宇宙開発の歴史(1)宇宙開発の流れを概観する
宇宙開発の歴史、そして未来へ…6枚の写真で概観する
川口淳一郎

人気の講義ランキングTOP10
習近平中国の真実…米中関係・台湾問題(5)恐るべき台湾への「浸透」
浸透工作…台湾でスパイ裁判が約70件、それも氷山の一角
垂秀夫
学力喪失の危機~言語習得と理解の本質(1)数が理解できない子どもたち
なぜ算数が苦手な子どもが多いのか?学力喪失の真相に迫る
今井むつみ
経験学習を促すリーダーシップ(1)経験学習の基本
成長を促す「3つの経験」とは?経験学習の基本を学ぶ
松尾睦
未来を知るための宇宙開発の歴史(12)宇宙推進技術はどこまで進化したか
水平離着陸で宇宙へ、近未来のロケット像と進む技術開発
川口淳一郎
編集部ラジオ2025(24)「理解する」とはどういうこと?
学力喪失と「人間の理解」の謎…今井むつみ先生に聞く
テンミニッツ・アカデミー編集部
伊能忠敬に学ぶ「第二の人生」の生き方(1)少年時代
伊能忠敬に学ぶ、人生を高めて充実させる「工夫と覚悟」
童門冬二
いま夏目漱石の前期三部作を読む(1)夏目漱石を読み直す意味
メンタルが苦しくなったら?…今、夏目漱石を読み直す意味
與那覇潤
世界のジョーク集で考える笑いの手法と精神(1)体制を笑うジョークと諷刺の精神
ジョークの精神…なぜ人は厳しいときほど笑いを磨くのか
早坂隆
クーデターの条件~台湾を事例に考える(4)クーデター後の民政移管とその方策
軍政から民政へ、なぜ李登輝はこの難業に成功したのか
上杉勇司
数学と音楽の不思議な関係(1)だれもがみんな数学者で音楽家
世界は音楽と数学であふれている…歴史が物語る密接な関係
中島さち子