●チンパンジーの子育ては母親一人が孤立して行う
チンパンジーは、母親だけしか子どもを育てません。お父さんは分からないのです。それは、いろいろと関係が複雑で、父親らしきオスはいるのですが、それがたくさんいて誰が父親か分からないからです。つまりお父さんがいないわけですから、父親による世話はありません。そして、母親も、ほとんど1人だけで育てます。つまり密着母子が2人だけでずっといる感じで、その意味では非常に孤立しています。ただ、孤立していても大丈夫なのです。
母親は、その辺りの果物を自分でむしって食べるわけだし、子どもはミルクを飲んで、それ以外のものは自分でむしって食べればいい。母子ともども、大して難しいことをする必要がないのです。母親は、自分が食べて、ミルクを出して、それで子どもを育てる。子どもの方は、離乳したら、自分で果物などをむしり取って食べるということで、それで済んでいきます。
そのようなチンパンジーたちがどうなっているかというと、数が増えることは全くありません。それは、もちろん生息地が破壊されたりすることもあります。しかし、とにかく母親だけで育てていて、いつ離乳するのかというと、5歳なのです。5歳までミルクを飲んでいたのが離乳して次の子が生まれるので、その間は6年の開きがあります。そういう状態で母親だけが育てて、子育て支援のようなものは何もなく、父親も分からない。一所懸命母親がミルクを出して、育てるのに5年かかる。
●ヒトの大繁栄はなぜ起こったかが、人類学の大疑問
一方、人間はどんどん人口が増えました。とくに昨今ものすごい勢いで増えたということがあります。1650年ぐらいには5億人だったといわれる世界人口が、1850年には倍の10億人、1930年にはさらに倍の20億人ということで、指数関数的な勢いで非常に増えていっています。
このようにヒトが大繁栄している理由は何でしょうか。
ヒトは、5歳までミルクを飲んだりはしません。先進国になるような文明以前の頃でも、大体は3年で離乳していました。また、母親が一人で育てるということもありません。父親もいるし、母親の兄弟や友達もいる。村のような集団全体が、みんなでいろいろと助け合います。
そのようなことがなぜできるのかというのが、人間が繁栄する上での一つのカギであり、人類学が明らかにし...