●ブラジルの経済体質は全然変わっていない
次のテーマは、私どもがお会いをした植木茂彬さんという方です。この方はブラジルの2世ですが、大変な勉強をされ、若くして弁護士になられました。それから軍政府に迎えられてエネルギー大臣になり、その後カルドーゾ大統領のもとでペトロブラスの役員からやがて社長になりました。社長を6年間されたのですが、その間に、深海5000メートルの採掘を成功させる、確実な目処がつくところまでもっていかれたそうで、大変な実力者ですね。弁護士であり、投資家であり、政治家でもあるという方で、ほとんどスーパーマンですが、ご本人自体は大変物静かな方ですが、私どもの会食では、堰を切ったようにいろいろなお話をされたのです。
例えば、今のブラジルは、どんどんレーティングが下がっているそうです。ブラジルというのは、経済体質を変えようと思っても全然変わってこなかった。つまり、市況商品であるコモディティを売って完成品を買うという繰り返しで、これではいつまでたっても本当の先進国になるはずがないと、そうおっしゃっていました。
●日系企業はトップがすぐ変わってしまうから、ブラジルを理解できるはずがない
それから、やはり日系人ですから、日本のことを心配なさっていて、日本の人はどこかずれていると感じているそうです。
例えば、ブラジルにはたくさんの日系企業があります。その企業の方々の投資行動をみると、ほとんどタイミングを外していて、今になって土地を買うという人がいるから、もう信じられないそうです。今そんなことしたら、全部失敗するのは分かっているではないかと、 植木さんにはよく分かるのでしょう。日本企業がブラジルにたくさん来ているけれども、ブラジルではほとんど儲かっていないはずだし、全く得をしていないはずだ、と。なぜなら、日系企業の方々はブラジルを本当に理解していないからです。しかも、企業はトップがすぐ変わってしまうから、ブラジルを理解できるはずがないと、おっしゃっています。
●日本人は日本人としか付き合わないから、ブラジルの本当の姿が分からない
もっと問題なのは、日系人しか入れないゴルフ場というものを作ってしまっていることです。要するに、ブラジル人と一緒にゴルフをしないのです。それから、日本ブラジル商工会議所という大きな団体があります。そこで私も講演をさせていただきましたが、立派な団体で、何百人も会員がいらっしゃるのです。しかし、植木さんは、「見てみなさい。あなたが講義をしたあそこでは、日本語ですよ。韓国商工会議所では、ちゃんとポルトガル語でやっています」とおっしゃるのです。つまり、多くの国はポルトガル語でやっているのです。それなのに、なぜ日本人だけ日本語で、そして日本人だけで付き合うのか。そんなことをしているから、ブラジルの本当の姿が分からないのではないか。そして、タイミングを外して損ばかりしているではないか。と、自分の故国のことですから、とても情けなく感じておられるのです。
また、日本の行動を見ていると、安全保障に対する感覚がほとんどないと感じるそうです。尖閣列島の問題で、中国との間にあれほどの緊張感があることを、世界中が、実は第1次大戦の頃とよく似ていると言っているわけです。その中で、日本はいったい何を考えているのだろうか。外部の私のほうが心配で心配で仕方がないと、そういうことをおっしゃっていました。
●硬直的で過度な労働状況を変えないとブラジルの将来は危ない
それから、ブラジルはコストがひどくて、生産性がずっと上がらない。また、休みが多すぎる、労働時間が少なすぎる。休みが多い国が進歩していない国だということは、どこの国を見ても分かることで、ブラジルはまさにその典型だとおっしゃるのです。
革命で軍政ができたときに、労働法を非常に厳格なものにしてしまったそうです。そのことが、今の非常に硬直的で過度な労働状況を提供するもとになっているそうです。とにかく、これは本当に変えないとブラジルの将来が危ないと、おっしゃっておられました。
おっしゃっていることがいちいちとても核心をつくものですから、私どもは本当に目から何枚も鱗が落ちる思いで聞いておりました。こういう方が、ブラジルの日系人の中にいらっしゃるわけです。世界の中で非常に苦労を重ねられて、ここまでこられた日系人の方で一種の同胞ですから、私どもは、もっと努力をして、もっと仲良くして、お互いにメリットを得られるようにしなければいけないと思った次第です。