長谷川眞理子です。今日は大きなテーマになりますが、学問分野の新しい動向について話をしたいと思います。
これまで、「なぜ少子化が起こるか」といったテーマに関して、私の考えていることなどを述べました。その考えの背景には、心理学がこれまでと少し違う形で発展してきた経緯がありました。学問的にも新しく再構成を起こし、進化生物学と心理学が一緒になって、「進化心理学」として発展してきているのです。
私もその研究をしたいと思っていますので、今日は「進化心理学」についてお話しします。
●進化とともに発展してきた臓器として脳を知る
私はこれまでにいろいろなことをやってきましたが、今の研究目標は、ヒトの脳とこころの働きを理解することです。脳みそは進化でつくられた臓器だから、進化によって何か「鋳型」のようなものをつくってきただろうと理解したいと思っています。
ヒトの臓器は、胃袋でも皮膚でも目でも、動物としてのヒトが進化してきた環境に適応してつくられています。ヒトの胃袋が消化器官だからといって、なんでも消化できるわけではなく、石油などは受け付けません。目にしても、ヒトはこの世界で昼間に動く動物であるサルから進化してきたので、紫外線は見えません。しかし、紫外線を感知して使っている動物は、ヒト以外にたくさんいます。目がどういう電磁波を受け入れ、観察し、情報処理をして暮らしているかということも、その動物の生きている環境に大変密接に関係しているわけです。
それと同じように、脳みそも臓器であり、万能コンピュータではありません。ヒトの脳みそがどういう臓器としてつくられてきたのかを知りたくなります。ヒトという動物が進化してきた舞台で、脳みそが解決しなければいけなかったものは何か。おそらく、脳みそはそこに特化して進化してきたのであって、例えば相対性理論が分かるかどうかなどが大事だったわけではないでしょう。そういう大きな枠組みで考えていこうという学問です。
●進化を最初に考えたダーウィンの3冊の本
人間について考える学問はいろいろありますが、その試みの一つとして、これまでの心理学を大きく一変させる動きを起こしているのが進化心理学です。
進化について最初に考えたのは、もちろんチャールズ・ダーウィンです。自然淘汰がどうして起こるか、どうやって生物がそれぞれ環境に適応し...