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ヒトの脳はどういう臓器としてつくられてきたのか?

進化心理学とは何か?(1)ダーウィンと心理学

長谷川眞理子
総合研究大学院大学長
情報・テキスト
ダーウィン
ダーウィンといえば「進化論」の提唱者として有名だが、彼の研究が心理面にも及んでいたことを知る人はあまり多くない。近代の心理学が始まったのは、彼の死後まもない19世紀後半。なぜダーウィンの研究は心理学の泰斗とならなかったのか。ダーウィン関連の著作も多い総合研究大学院大学長・長谷川眞理子氏にご案内いただく。(全4話中第1話)
時間:10:45
収録日:2018/02/14
追加日:2018/05/27
≪全文≫
 長谷川眞理子です。今日は大きなテーマになりますが、学問分野の新しい動向について話をしたいと思います。

 これまで、「なぜ少子化が起こるか」といったテーマに関して、私の考えていることなどを述べました。その考えの背景には、心理学がこれまでと少し違う形で発展してきた経緯がありました。学問的にも新しく再構成を起こし、進化生物学と心理学が一緒になって、「進化心理学」として発展してきているのです。

 私もその研究をしたいと思っていますので、今日は「進化心理学」についてお話しします。


●進化とともに発展してきた臓器として脳を知る


 私はこれまでにいろいろなことをやってきましたが、今の研究目標は、ヒトの脳とこころの働きを理解することです。脳みそは進化でつくられた臓器だから、進化によって何か「鋳型」のようなものをつくってきただろうと理解したいと思っています。

 ヒトの臓器は、胃袋でも皮膚でも目でも、動物としてのヒトが進化してきた環境に適応してつくられています。ヒトの胃袋が消化器官だからといって、なんでも消化できるわけではなく、石油などは受け付けません。目にしても、ヒトはこの世界で昼間に動く動物であるサルから進化してきたので、紫外線は見えません。しかし、紫外線を感知して使っている動物は、ヒト以外にたくさんいます。目がどういう電磁波を受け入れ、観察し、情報処理をして暮らしているかということも、その動物の生きている環境に大変密接に関係しているわけです。

 それと同じように、脳みそも臓器であり、万能コンピュータではありません。ヒトの脳みそがどういう臓器としてつくられてきたのかを知りたくなります。ヒトという動物が進化してきた舞台で、脳みそが解決しなければいけなかったものは何か。おそらく、脳みそはそこに特化して進化してきたのであって、例えば相対性理論が分かるかどうかなどが大事だったわけではないでしょう。そういう大きな枠組みで考えていこうという学問です。


●進化を最初に考えたダーウィンの3冊の本


 人間について考える学問はいろいろありますが、その試みの一つとして、これまでの心理学を大きく一変させる動きを起こしているのが進化心理学です。

 進化について最初に考えたのは、もちろんチャールズ・ダーウィンです。自然淘汰がどうして起こるか、どうやって生物がそれぞれ環境に適応したものになるかということを彼が最初に考えた成果が、1859年に出た『種の起源』という書物です。

 その次に、1871年には、配偶者を獲得する競争や配偶者選びが、どのように動物や人間を形成するかという性淘汰の話を書いた書物が出ています(『人間の進化と性淘汰』)。

 その翌年の1872年に、今度は『動物と人間における感情表現』という書物を出しています。ここでは、ヒトの感情やそれを表出する笑いや怒りなどの行動が、動物の感情や感情表現と連続的に出ていることや、人間の感情の持ち方や表現の仕方は、動物の生活の中でできてきたものをもとに進化したことを示そうとしました。

 この本は71年の『人間の進化と性淘汰』の続編に当たりますが、ダーウィンの考えたかったことが分かります。彼は人間のいろいろな肌の色などの他に、感情をどう表現するか、感情がどう持たれているかということも、動物から連続する形で進化的に考えたかったのです。


●動物とヒトの「比較心理学」の祖、ロマニスの早逝




 この本の中には、写真の技術をいろいろと用いて、動物やヒトの多様な表情が収録しています。人間と動物はどう共通点があるか、どこが人間に固有に発達してきたかといったことが考察されているのです。ですから、これは一種の心理学の始まりでもあったわけですが、実際には心理学はまったく違うところで始まっています。

 ダーウィンの「動物と人間の感情表現」の研究については、継承してくれそうな人がいました。ジョージ・ロマニスというカナダ生まれのイギリス人です。1848年生まれなので、ダーウィンの一番若いお弟子さんでした。

 感情表現によって心理的なものを進化で探究しようというダーウィンの研究の後継者になれたはずなのが、ロマニスです。彼は比較心理学という、動物とヒトの心理を比較して研究する心理学の元祖といわれています。ところが、この人は1894年に46歳で早死にしてしまったのです。ここで、ダーウィンが目指した心理や感情の進化の話は、いったん立ち消えになってしまいます。そうして、心理学がまったく別のところから始まることになったのです。


●ブントとジェームズの目指した「心理学」とは


 現代心理学の祖といわれている人は何人もいますが、有名なのは、ドイツ人の哲学者だったウィルヘルム・ブントという1832年生まれの人です...
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