●証明されていない新しい世界で試行錯誤するような大規模量的緩和
―― 貿易収支の赤字は、輸出総量が増えずに、為替レートが2、3割、円安になっているので、莫大な額で定着していくかと思います。また、原発を動かそうとしても、そう簡単には行かないと思います。一方で、世界の景気が新興国、中国を中心に縮小していて、アメリカも「言われているほど良くない」ということがだんだん分かってくると、現状4カ月連続の経常収支の赤字が定着する時期が来る。そうすると、もう一回、財政問題が再燃して、どこかのタイミングで金利が急騰するリスクが増えてくる感じがしています。
そうなると、全く期待を抱かないような状況下で、国債価格の暴落ということと相まって日本の金利がゼロ金利から上がっていく。そのことで、市場金融が回復するというシナリオのほうが正しいのではないかというように、最近私は考えているのですが、いかがでしょうか。
曽根 金融学者にとって、金利が効かない世界は、やはり説明が非常に難しいのだと思います。金利があるから成り立っていた。ところが、ゼロ金利に近いところに収斂してきてしまう。また、日本だけではなくて、海外でも量的緩和やマイナス金利を始めたり、あるいは、中央銀行がいろいろな債券を買い込むなどして量的緩和が行われる。こういった現象は、まさしく証明がされてない新しい世界に入り込んで、試行錯誤しているようなもので、一見すると良く見えるものも、その裏には中央銀行の負債がたまっているのです。バランスシートを膨張させているわけです。
ですから、そこの問題は、理論を開発するのか、現実が先に行くのかよく分かりませんが、ある意味で未知の領域で、失敗すればかなり取り返しのつかないことが起きるのではないでしょうか。また、成功しても今まで通りというところに今はきているわけですから、日本だけではなくて、世界中が難しいことになっているように思います。
●インフレ目標政策の真の目的は経済の循環構造の転換
―― イエレンは金利をなかなか上げられないと思いますが、金融緩和の縮小に向かって確実に進み始めています。イギリスも完全にそうですね。EUは同じようにやっている時に、一周遅れで、とてつもない規模の金融緩和を始めて、その結果として得たものが、貿易収支の大赤字でした。
また、輸出企業のサプライチェーンがすでに変わっていますから、今さらやっても輸出総量の数字は伸びないし、世界全般的には、貿易数量が縮小しています。この時期にあたるのは、結構、致命傷になるリスクが高いのかなと思います。
曽根 懸念点の一つは、日本がまだ出口戦略まで行っていないということ。もう一つは、政府は物価上昇率2パーセントに目標を置きましたが、多分2パーセントにならないと思います。ただ、その2パーセントとか1.5パーセントの持つ意味が問題です。つまり、2パーセントでなくてはならない理由はないわけです。経済をどう回すかの話であって、物価が高くないと回らなかったというのが一番大きな論点であって、その回る速度をどうするかという話です。それは目標が、インフレターゲットではなくて、経済の循環構造の構造転換のほうだったからです。
ですが、分かりやすくするために「インフレを・・・」というところで、2パーセントという数値を挙げたわけです。つまり、本来狙っている政策目標と、現実に行っているものが、ずれていたのではないかという気はします。
●量的緩和で買った時間で強い体質づくりを
―― 先生がおっしゃっていたように、社会保障についても、最大でトータル110兆円も給付している。ここに全く手を付けなければ、いくら増税しても追い付きません。ここをほったらかしにしておいて、とりあえず国債だけをたくさん刷って日銀に引き受けさせるということをやっても、経済を回すという意味では何ら実質的な意味は持たず、いくらモルヒネを注入しても、注入している間に、一定期間の抜本的な手術を行う段取りをしない限りは、事態は変わらないというのと同じことですね。
曽根 なので、量的緩和は、「時間を買っただけ」ということも言えるわけです。問題は、日本人が持っているから国債は売らないだろうということで、それはあまりにも機関投資家をばかにした話です。金融機関にしろ機関投資家にしろ、危なくなったら、すぐ逃げます。長期国債を短期に、残存期間の短いものに買い換えていますが、そういう点では、リスクを見ながら運営していると思います。
もう一つは、日銀があまりに国債を買うものですから、そこから先の問題は、金融機関が貸し出しをどこまでできるようになるか、ということです。経済成長期は、見事に信用創造が行われていたので、投資が投資を呼んだわけですが、今はそうなりません。
さ...