アベノミクスの正念場~東大日次指数から見る~
この講義の続きはもちろん、
5,000本以上の動画を好きなだけ見られる。
スキマ時間に“一流の教養”が身につく
まずは72時間¥0で体験
消費税率引き上げ後の消費の反動減は思った以上に厳しい
アベノミクスの正念場~東大日次指数から見る~
植田和男(第32代日本銀行総裁/東京大学名誉教授)
2パーセントの物価目標を導入した日銀。しかし、民間の予測とは大きな乖離があり、市場関係者は今、固唾をのんでその動向を見守っている。輸出や生産、賃金などの各指標の動向の解説とともに、速報性に優れる売上高や物価に係る「東大日次指数」を使い、現在の物価上昇鎮静化の裏側にひそむ消費や経済の弱さを植田和男氏が浮き彫りにする。ここがアベノミクスの正念場なのか?
時間:15分29秒
収録日:2014年8月5日
追加日:2014年8月8日
カテゴリー:
≪全文≫

●日銀と民間ではインフレ率の見通しにギャップがある


 それでは、今日は、当面のインフレ率およびそれに関連する経済の動向について、少しお話してみたいと思います。

 最初にこちらをご覧いただきたいのですが、一番左端は2013年度のインフレ率です。この辺は、消費者物価指数で上昇傾向にあったわけです。そのあとは、今年度の平均、来年度、再来年度ということで、将来についての見通しを示しています。青い方は日本銀行の見通しで、公式の見通しと言いますか、ボードメンバーの平均の見通しですね。それから、赤い方は民間の調査機関の平均の見通しになっています。

 ここが2パーセントですが、日本銀行は自ら2パーセントの目標を2年前後で達成すると言っています。それが当たるかどうかは分かりませんが、来年度、再来年度にかけて2パーセント前後になるという見通しを出してきています。

 これに対して民間の見通しは、せいぜい1パーセント前後に到達するくらいであろうということで、大きなギャップがあることが分かります。

 どちらが正しいかということは、この先だんだんと分かり始めていくということで、そのことがマーケット等にも大きな影響があると皆考えて、固唾をのんで見守っているというのが現状かと思います。

 では、なぜ赤い線、つまり、民間の見通しが、日本銀行のそれに比べてだいぶ下を走っているのか。文字通り、日銀の見通し通りにはなかなかいかないだろうと、特に日本の調査機関は思っているわけです。その一つの理由は、経済状況についての楽観の度合いが、日本銀行ほどではないということだと思います。

●消費税率引き上げ後の生産調整は97年時より格段に厳しくなっている


 そこで、次にこの図ですが、特に非常に近い足元である、今年の消費税率引き上げ後の経済の動きを見ていただこうと思います。

 これは、横が昨年の10月くらいからの月次のデータになっています。データそのものは、製造業の生産水準の指数になっています。赤が今回、つまり、昨年の10月からの動きを示しています。ここが4月1日ですが、4月1日の少し前にずいぶん上昇して、そのあと足元はかなり急落している姿であることが分かります。

 参考のために青い線も同じ図に書き込んであります。これは、前回消費税率を引き上げた時の生産指数の動きになっています。前回は199...

スキマ時間でも、ながら学びでも
第一人者による講義を1話10分でお届け
さっそく始めてみる
「政治と経済」でまず見るべき講義シリーズ
日本の財政政策の効果を評価する(1)「高齢化」による効果の低下
高齢化で財政政策の有効性が低下…財政乗数に与える影響
宮本弘曉
トランプ・ドクトリンと米国第一主義外交(1)リヤド演説とトランプ・ドクトリン
トランプ・ドクトリンの衝撃――民主主義からの大転換へ
東秀敏
2025年、どん底日本を脱却する大戦略(1)日本が凋落した要因を総覧する
日本凋落の「7つの要因」と「10の復活大戦略」
島田晴雄
習近平中国の真実…米中関係・台湾問題(1)習近平の歴史的特徴とは?
一強独裁=1人独裁の光と影…「強い中国」への動機と限界
垂秀夫
デジタル全体主義を哲学的に考える(1)デジタル全体主義とは何か
20世紀型の全体主義とは違う現代の「デジタル全体主義」
中島隆博
ポスト国連と憲法9条・安保(1)国連の構造的問題
核保有する国連常任理事国は、むしろ安心して戦争できる
橋爪大三郎

人気の講義ランキングTOP10
デカルトの感情論に学ぶ(1)愛に現れる身体のメカニズム
デカルトが注目した心と体の条件づけのメカニズム
津崎良典
何回説明しても伝わらない問題と認知科学(2)バイアスの正体と情報の抑制
『100万回死んだねこ』って…!?記憶の限界とバイアスの役割
今井むつみ
内側から見たアメリカと日本(2)アメリカの大転換とトランプの誤解
偉大だったアメリカを全否定…世界が驚いたトランプの言動
島田晴雄
戦争と暗殺~米国内戦の予兆と構造転換(3)未解決のユダヤ問題
「白人vsユダヤ人」という未解決問題とトランプ政権の行方
東秀敏
徳と仏教の人生論(1)経営者の条件と50年間悩み続けた命題
宇宙の理法――松下幸之助からの命題が50年後に解けた理由
田口佳史
経験学習を促すリーダーシップ(1)経験学習の基本
成長を促す「3つの経験」とは?経験学習の基本を学ぶ
松尾睦
「重要思考」で考え、伝え、聴き、議論する(1)「重要思考」のエッセンス
重要思考とは?「一瞬で大切なことを伝える技術」を学ぶ
三谷宏治
認知バイアス~その仕組みと可能性(1)認知バイアス入門
誰もが陥る「認知バイアス」…その例とメカニズム
鈴木宏昭
学力喪失の危機~言語習得と理解の本質(1)数が理解できない子どもたち
なぜ算数が苦手な子どもが多いのか?学力喪失の真相に迫る
今井むつみ
危機のデモクラシー…公共哲学から考える(3)カントの公共性論
いま学ぶべきカントの挑戦~なぜ「公開性」が重要なのか
齋藤純一