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知らないうちに侵略される「ハイブリッド戦争」の事例とは

戦争の常識を覆すハイブリッド戦争にどう立ち向かうか

情報・テキスト
昨今、戦争は新しい時代に突入した。2014年のロシアによるウクライナ侵攻では、サイバー攻撃によっていつのまにか始まり、気づいた時にはウクライナ軍はすでに無力化されていた。こうした新しい「ハイブリッド戦争」に対処するために、日本社会は防衛省や自衛隊を中心として、これまでとは異なる対策を講じなければならない。
※インタビュアー:神藏孝之(10MTVオピニオン論説主幹)
時間:14:48
収録日:2019/06/19
追加日:2019/10/10
≪全文≫

●「気づいたときには占領されていた」ロシアのウクライナ侵攻


―― それでは早速、ロシアとウクライナを事例として、昨今、戦争の形態がハイブリッドな形に変わってきているというお話について、お伺いしたいと思います。

小野寺 そのことをお話するために、まず最近の防衛省の動きについてご説明します。防衛省は、「防衛計画の大綱」という安全保障政策に関する基本的な方針を、10年スパンで作成しています。いちばん最近作ったのは2013(平成25)年で、私はその時、防衛大臣を務めました。さらに、2018(平成30)年、防衛大綱をまた見直すことになりました。見直すことを決めた大臣も私です。

 そのきっかけが、これまでとは異なる戦争として位置付けられる、2014年のウクライナへのロシアの侵攻でした。この侵攻では、後に状況を分析した私たち防衛の専門家が腰を抜かすような戦い方が行われました。判明した段階で、私たちは「日本の防衛大綱を見直さないと、とても国が守れない」と思うに至り、急遽、防衛大綱を変更しました。今回はぜひ、ロシアがどんな戦い方をしてきたのかということを知っていただきたいと思います。


 2014年に、ロシアがウクライナを侵攻したということは広く知られている事実です。今でも実は、ロシアの力による現状の変更および占有が続いています。特にクリミア半島は、完全にロシアの手に落ちました。ではその時、どんな戦い方があったのでしょうか。端的にいえばそれは、「いつ起きたか分からない戦争」です。

 まず起点になったのは、何の組織だか分からないような民間の人たちによる、ウクライナの港湾施設や鉄道、電力施設などで展開された、デモでした。不思議に思い警察が調べてみても、特に兵隊とも思えない、なんだかよく分からない集団であるという状況でした。

 そうしているうちに今度は、急にウクライナ全土で携帯電話が通じなくなったそうです。通じなくなっただけでなく、携帯に偽のSNSが流れていきました。これにより、ウクライナ全土が大混乱になりました。その後さらに、急に大規模な停電が主要都市で起きるようになりました。停電が起きたので、誰もが情報を求めます。停電でテレビがつかないのでラジオをつけてみると、そこからはおかしなニュースばかりが流れてきます。「おかしいなあ」と思っているうちに、気が付いてみると先ほど重要施設を取りかこんでいたデモ隊が、いつのまにかロシアの民兵に変わっていたそうです。そして重要施設を占領されてしまいました。

 驚いたウクライナ軍は偵察をするためにドローンを飛ばし、警戒監視をしてみると、そのドローンが次々と落ちていくのです。何も攻撃されていないのに、勝手に落ちていきました。どうもこれは完全にロシア軍による侵攻だ、とウクライナ側が判断し、ロシア軍との小規模なぶつかり合いになりました。ウクライナ軍が反撃をしようと思って大砲を撃つと、今度はその弾が全て不発弾として落ちてしまうのです。

 こうして、ほとんどまともな戦いができず、ウクライナは気が付くと完全に占領されてしまいました。これが、ウクライナで起きた事案です。


●サイバー攻撃と妨害電波、電磁波攻撃による「無力化」


小野寺 アメリカ軍は、後にこの戦争を分析しました。2016年に当時のアメリカ軍におけるハーバート・マクマスター中将が、この戦争についてアメリカ議会で証言しました。マクマスター中将はその後、ドナルド・トランプ大統領の最初の補佐官になる人です。その証言によると、ロシアは攻撃に当たってまず、民兵の集団を多数ウクライナに送りました。その後、サイバー攻撃によって携帯電話の基地局を乗っ取りました。これにより通信を使わせないようにした上で、偽SNSを流したそうです。さらにサイバー攻撃を続け、主要な電源のプラントを機能停止にし、停電を起こしました。停電が起きた場合には主要メディアがラジオになることを予測し、ロシアはなんと偽のラジオ局をあらかじめ用意し、そこから偽情報を流したのです。

 ロシアはさらに、サイバー攻撃だけでなく、強い妨害電波で宇宙からの情報を遮断しました。これによりGPSが使えなくなったため、ウクライナ軍は車両の運行や軍艦の航行ができなくなりました。

 また、ロシア軍は強い電磁波を使ってドローンを攻撃しました。ドローンは行き先が分からなくなると自動的に落ちるシステムになっているようで、こうした電磁波による攻撃で、ドローンが落ちてしまったのです。最後は強い電磁波で、ウクライナ軍の砲弾の信管を作動不能にしました。現代の砲弾は電子信管であり、電子作動になっているため強い電磁波をかけると作動不能になり、不発弾になってしまいます。

 アメリカの分析で分かったのは、ロシア軍がウクライナ侵攻においてこういった戦いをしたということ...
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