●「気づいたときには占領されていた」ロシアのウクライナ侵攻
―― それでは早速、ロシアとウクライナを事例として、昨今、戦争の形態がハイブリッドな形に変わってきているというお話について、お伺いしたいと思います。
小野寺 そのことをお話するために、まず最近の防衛省の動きについてご説明します。防衛省は、「防衛計画の大綱」という安全保障政策に関する基本的な方針を、10年スパンで作成しています。いちばん最近作ったのは2013(平成25)年で、私はその時、防衛大臣を務めました。さらに、2018(平成30)年、防衛大綱をまた見直すことになりました。見直すことを決めた大臣も私です。
そのきっかけが、これまでとは異なる戦争として位置付けられる、2014年のウクライナへのロシアの侵攻でした。この侵攻では、後に状況を分析した私たち防衛の専門家が腰を抜かすような戦い方が行われました。判明した段階で、私たちは「日本の防衛大綱を見直さないと、とても国が守れない」と思うに至り、急遽、防衛大綱を変更しました。今回はぜひ、ロシアがどんな戦い方をしてきたのかということを知っていただきたいと思います。
2014年に、ロシアがウクライナを侵攻したということは広く知られている事実です。今でも実は、ロシアの力による現状の変更および占有が続いています。特にクリミア半島は、完全にロシアの手に落ちました。ではその時、どんな戦い方があったのでしょうか。端的にいえばそれは、「いつ起きたか分からない戦争」です。
まず起点になったのは、何の組織だか分からないような民間の人たちによる、ウクライナの港湾施設や鉄道、電力施設などで展開された、デモでした。不思議に思い警察が調べてみても、特に兵隊とも思えない、なんだかよく分からない集団であるという状況でした。
そうしているうちに今度は、急にウクライナ全土で携帯電話が通じなくなったそうです。通じなくなっただけでなく、携帯に偽のSNSが流れていきました。これにより、ウクライナ全土が大混乱になりました。その後さらに、急に大規模な停電が主要都市で起きるようになりました。停電が起きたので、誰もが情報を求めます。停電でテレビがつかないのでラジオをつけてみると、そこからはおかしなニュースばかりが流れてきます。「おかしいなあ」と思っているうちに、気が付いてみると先ほど重要施設を取りかこんでい...