●若者の「就職」意識が変わっている
柳川 少なくとも若い世代に関しては、近年かなり急速に就職の意識が変わってきているのだろうという気がしています。大手の企業に行くのではなく、ベンチャーに行くなり、自分で会社を興そうという人が、うちの大学(東京大学)でも割と増えています。構造的にはだいぶ変わってくるのではないかと思います。
―― ベトナム戦争が終了した後、大企業がリストラばかりしているうちに、ハーバード、コロンビア、スタンフォード大学の出身者が自分でベンチャーを始めたことで、流れが変わりました。あれと同じようなこととして、特に伊藤元重先生のゼミや植田和男先生のゼミを見ていると、30代前半で自分の組織をつくっている人が出てきています。あれは、いいことですよね。
柳川 いいことだと思います。特に今は、少人数のベンチャーこそ、イノベーションや生産性の向上がうまくいく時代だと思います。大企業がうまくいかなかったという面もありますが、そういう若い小さな会社に、非常に伸びしろがある。社会全体の環境も、それにうまく合わせてつくっていくことだと思います。
―― そうすると、スモールサイズ(小さな組織)のほうが自分の目は届きやすいですし、スモールサイズでの開発・製造・販売を早回しするほうが強いですよね。
柳川 やはり今の時代は、小さな組織のほうが圧倒的にメリットが出る時代だと思います。昔は、大きくないとできないことが結構あって、大きな企業でないと、なかなかお金が借りられず、資金調達ができなかったり、非常に大きな設備投資をしないとビジネスにならなかったりしました。今は、小さな組織でも資金調達がしっかりできますし、別のところに生産委託をすれば、自分たちの思っていることをしっかり社会に示し、売っていくことができるようになっています。
プラットフォーム企業ができてきた結果として、技術だけではなく、いろいろな経済構造の変化が起こりました。ある意味、組織のあり方についてもずいぶん変わってきていて、イノベーションを生み出すエンジンがどこから出てくるのか、という構造が世界全体で変わっているということです。その波が、日本にやってきていると考えたほうがいいと思います。
●大組織の難しさをカバーする小さな会社の面白さ
―― となると、むしろ意思決定が早くて、言語が通じるというか、言語体系に詳しい人がやったほうが、強いですよね。
柳川 そうですね。大組織の抱える難しさは、意思決定に時間がかかり、方向転換が難しい点です。今はスピードが要求される時代なので、小回りが利いて、小さな組織の中で意思決定をして動かしていくことにメリットがあると思います。大企業であれば、むしろどこまで小さな組織のかたまりに持っていけるかということが、勝負になりつつあります。若い人が若い会社を、小さな規模でもいいからつくることに、生産性や伸びしろがあるので、面白い時代だと思います。
―― 10パーセントとか~15パーセントほど出資して、メンターをやっている人たちが周囲に結構います。日本に留学した中国の人たちのなかにはトリリンガルができて優秀な人も多く、彼らとタッグを組んでビジネスをしているところもあります。そういうことを聞くと、私も非常に刺激になるし、勉強になります。
柳川 実は日本でも、やる気になれば相当できることなので、新しいチャンスをみんなでちゃんと取りに行くかということだと思います。
●経営者人材育成のためには、失敗しても経験をしておくことが大事
―― 二、三回失敗を経験すれば、10年後に成功しそうな人たちが結構いますね。
柳川 そうですね。「いい傾向だ」と思うのは、かつてはベンチャーを立ち上げて、会社をつぶしたり失敗したりすると、「そんな人は、どこも雇わない」といったイメージを持つ人が多かった。今は、「曲がりなりにも会社をつくってがんばること、たとえ失敗しても経験をしておくことが大事だ」と、多くの人が考えるようになったことが、大きな環境変化だと思います。
―― リスクを背負ってでも自分でやってみることで、たとえ100人のうち99人がつまずいたとしても、経営者人材を養成するという意味では非常なメリットがありますよね。
柳川 確かにそうですね。経営者、すなわち会社を経営するのも、一種の専門能力だと思います。その能力のかなりの部分は「実際に経営をする」という経験をしないと蓄積できません。小さくてもいいから、若い段階でもいいから、できるだけそういう経験をさせておくことが、これからどんどん必要になると思います。
―― 1980年代後半から90年代前半の間に3分の1ほどシリコンバレーに行ったり来たりしていたので、そこを見ていて感じたことですが、膨大な会社が一気にできて一気につぶれている...