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曙ブレーキ工業の活動が象徴的! 高齢化社会にも可能性

会社は社会を変えられる―これからのCSR

小宮山宏
東京大学第28代総長/株式会社三菱総合研究所 理事長/テンミニッツTV座長
情報・テキスト
『会社は社会を変えられる』
(小宮山 宏 ・岩井 克人共著・編、プレジデント社)
CSRは単なる「企業による社会貢献の一環」なのだろうか? 小宮山宏氏によれば、新しいCSR活動とは、ビジネスチャンスを生み、かつ社会の課題を解決し得るものなのである。ユニークなCSR活動を続ける企業の実例を紹介しつつ、新しい社会に対応するCSRのあるべき姿を示す。
時間:08:56
収録日:2014/07/15
追加日:2014/09/19
≪全文≫

●新しいCSRが社会を変えていく


 最近出した本で、私1人ではないのですが、経済の専門家の岩井克人先生と、編集著者ということで出した本があります。『会社は社会を変えられる』(プレジデント社)という本です。そこで、「CSRとは一体、何なのだ」という議論をずいぶんいたしました。それで、日本の会社のやっているCSR活動をずいぶん調べまして、その中からいいものをいくつか選んで、今後、日本の会社のCSRは一体どのようになっていくべきなのかということを考えましたので、少しお話させていただきたいと思います。

 今、日本の会社のほとんどのCSRというのは、言い方が悪いかもしれませんけれども、「社会貢献の一環として、金食い虫ではあるのだけれども、まあいいだろうと思ってやっている」というようなところが多いですよね。しかし、これからは違ってくると思うのです。むしろ、CSRという活動をしていく中から、社会の課題を解決していくそのときに、そういう活動が本業と統合されて、あるいは、本業と多少外れてもいいのですが、新しいビジネスを生んで会社の稼ぐ部門が新しく生まれていく。こういう形のCSRがおそらく出てくるだろうし、それが社会を変えていくのではないか、というのが結論なのです。


●曙ブレーキ工業のユニークなCSR


 例えば、曙ブレーキ工業という自動車のブレーキをつくっている会社があります。8000人を超えるようないわば大企業ですが、ここは、もう50年以上の面白いCSRの歴史を持っています。もともとは50年前ですから、まだ大学に行きたい人が皆行けるような時代ではなかったわけで、曙ブレーキに就職してきた人たちは、高校卒業であったり、中学卒業であったりする人もたくさんいたのです。そういう人たちを夜学に送ってあげる。そういう支援を会社がするということをずっと続けていたのです。これはある種のCSR活動です。ところが、結局そうやって長く育ててきた人たちが今、会社の中核、中核となる力なのです。

 さらに、それがどう発展してきているかというと、曙ブレーキは4パーセントまではまだいっていませんけれども、4パーセント近い障害者の雇用を実現しています。今、日本では「障害者雇用2パーセントを企業は目標にしなさい」という指針を出しているのですが、平均はそこまでいっておらず、1.8パーセントぐらいしかいっていないのです。その中で、4パーセント近い障害者雇用という実績を、曙ブレーキは上げています。

 普通は、どちらかと言うと、先ほど言った、「CSRというのは金食い虫だけれども、まあ仕方がないからやるか」という感覚に近い会社が多いわけです。「障害者を雇うというのは、生産は落とすけれども、まあ国の方針だからやるか」ということです。しかし、これでは駄目なのです。曙ブレーキは逆に、それが生産性を上げているのです。

 それはどういうことかというと、障害を持っている人、いろいろな障害の方がいるわけですが、そういう人に、いきなり「何かやれよ」と言って、「あ、これはこの人はできないのだ、では、これか」という形にするのではなくて、仕事を少しずつ教えていくのです。そうすると、遅いけれども非常に能力を発揮し出すのだそうです。そういう形で適性を見つけて、訓練の期間を少し長期に見ていくと、障害を持っている人たちが戦力になって生産性を上げていくのです。また、面白いことに、どういう名前かは忘れましたが、そういう障害者にいろいろ教えていくという指導員の人たちというのは、曙ブレーキが50年以上にわたって育ててきた、夜学に通わせてもらって自分たちも育ててもらったという人たちがやっているのです。


●働き方も仕事の中身も変わる高齢化社会


 このような形というのは、これからの企業のあり方を私は象徴していると思うのです。というのは、今、日本は世界の高齢化を引っ張っているわけです。高齢者の雇用というのは法律で決められています。60歳までは雇わなくてはいけないとか、あるいは、最近は65歳までは本人が希望すれば働き続けることができるなどという形に、今なっているわけですが、これを負担として見ている会社がほとんどです。

 ですが、これを今言った曙ブレーキがやってきたようなものに学べば良いのです。なぜなら、高齢者というのは、知恵は若い人以上にあるからです。そういう人たちが働けば、働き方だって変わるのですから。

 というのは、今、15歳以上から65歳未満というのが労働生産年齢、要するに働く人たちですね、そのように定義していますが、今15歳で働いている人などほとんどいないではないですか。それで、なぜ15から65なのですか。それは、産業革命の時代だったからです。要するに、工場で生産していくというのが前提になっている...
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