●企業や大学と連携したロボット開発の難しさ
村田 かながわリハビリロボットクリニックの役割としては、ロボットの開発が最後にあります。開発自体や、企業や大学との連携です。こちらは年間に20件以上の相談が、企業や大学から入ってきます。使い方、もしくはモノ自体の開発を一緒に行い、必要があれば当院の患者さんに試していただくことや、当院の専門職種の方々に見ていただいてフィードバックする。そういったことも、実際に手がけています。
谷口 こちらでいろいろな患者さんから実際に得た知見をフィードバックして、企業ではそれが十分に生かされるのでしょうか。
村田 非常に難しいと思います。企業にしてみると、完成品を見てもらいたいという気持ちがおありなので、開発途中の状況でお持ちいただくことは非常に少ないです。そのため、当院に来る段階で、すでにある程度モノとして完成されています。
完成されたモノに対して、われわれが、たとえば「ここは、もっとこうすると安全かもしれない」などと意見交換させていただいても、企業の方では仕様変更が難しいことがあります。デザインやプログラムなどの運用についても、仕上がった状況でお持ちいただくので、それに対するもどかしさはあります。
意見交換の席上では、企業の方が「ああ・・・」と納得される場面もあれば、われわれが「ここがもう少し違っていれば、より安全に使えるのに」と思う場面もあり、そのあたりが非常に難しいです。
また、非常に初期段階で来られる場合もあります。今から開発しようと思うものに対するフィールド調査というかたちで来られる方がいらっしゃる。それに関しては、いろいろな情報をお伝えして、企業の方がそのなかから「では、この路線で行こう」と選択肢を決めているのだと思います。
先に述べた完成品を持ち込まれた場合、モノとしての改修が難しいときは、使い方を工夫していくというお話をさせていただくことが多いです。
たとえば、「こういう方には危険だから使わない」というカテゴリーを作ることもあれば、使うときの手順をしっかり決めてリスク管理をした上でモノとして提供していく。もしくは、使い方やプログラムなどについて、別の方法をとれば思いがけない対象に効果があることも考えられる。そういったところをお話しすることもあります。
●ビジョンのあるロボット、ないロボットの違い
谷口 せっかくここで得られた知見なのに、それが生かされないと惜しいですね。
村田 そうですね。ただ、そういうものだとも思うので、どうにも難しいところです。企業は大体、ご自分の会社の技術の集大成として持って来られる場合が多いです。ロボット特区の傾向として、大手企業より地元企業の方が、「こういうものをつくってみました」と持ち込まれることも比較的多いです。
大手企業の開発品を見ると、ある程度フィールド調査もされていて、どの対象に落とし込んでいくのかというビジョンがあって持ってこられることが多い。その場合、モノに対する利益や費用対効果についても多分しっかり考慮して、企業として展開されているのだろうと思います。
そうでない企業の場合、そのあたりがおろそかというと語弊がありますが、非常に思いの強い方が開発されていることがあります。「こうしたい」という思いでつくられると、対象が非常に狭く限定されます。そこで、いざ販売するとなったときに、モノとして成り立つのか、会社として成り立つのかが非常に危ぶまれることがあります。
企業によっては、明確なビジョンが見えていないことも多く、本来はそのあたりを特区として県にバックアップしてもらうと、企業としては安心して進めやすいのではないだろうかと感じるところはあります。
谷口 あまり製品として固まる前、もっと初期段階にいろいろ知見を得ることができればいいのでしょうね。
村田 そうですね。多分そうすることでより多彩な意見が出て、リスクや使い方の選択肢になると思います。企業としては、それらを知った上で「ここを進めていく」というビジョンがある方が、販売するときのプレゼンなどもやりやすいだろうと思います。
たとえば「片まひの方に合わせたもの」となると、厚生労働省の報告を見れば対象者の人数も大体割り出せる。そのなかで購入を希望される方はどのぐらいの割合かも読める。さらに、そのロボットが1台100万円なら、何台売れればペイするのかというところまで、本当は一緒に考えていければいいのではないかと思います。
企業によっては、意図しなかった方向性で売らざるをえない状況もあると思います。私としては、企業がつくったものをまず世に出して、売ることで広まっていってほしい。それが広まって、企業としての体力にゆとりができれば、本当に目指したかったと...