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生活支援ロボットの実証実験場としての役割

生活支援ロボットと人の共生(2)ロボット産業特区

村田知之
神奈川県総合リハビリテーションセンター 研究部リハビリテーション工学研究室研究員
情報・テキスト
神奈川県総合リハビリテーションセンターで扱う「生活支援ロボット」とはどんなものなのか。なぜ病院で実証実験が行われるのだろうか。最先端技術の「共創」空間として、多彩な職種が力を合わせる実態と、その受入窓口としての具体的な役割は、どのように変化しているのだろうか。(全9話中第2話)
※インタビュアー:谷口和弘氏(慶応義塾大学商学部教授)
時間:06:33
収録日:2018/12/06
追加日:2019/07/16
≪全文≫

●生活支援ロボットの実証フィールドとは


谷口 前回訪問したときにもいろいろお話をうかがいましたが、神奈川県が今ロボット産業の育成に非常に力を入れている。特に県央部(厚木市、藤沢市、相模原市)にロボット産業のクラスターを育成しようとしていて、「さがみロボット産業特区」と言われています。そのなかで、神奈川県総合リハビリテーションセンターは、どういった位置付けになっているのでしょうか。

村田 さがみロボット産業特区の中で、この神奈川県総合リハビリテーションセンターは、いわゆる生活支援ロボットの実証フィールドになっています。生活支援ロボットなので、その他の、たとえば工業用ロボットなどは当センターではあまり関与していません。

 生活支援ロボットは、その名のとおり生活を支援するロボットです。リハビリも含めて生活の補助具としてのロボットが多彩にありますが、共通して言えるのは、「対ヒト」であることです。つまり人のために使うロボットですから、先ほども言ったように、人のことを知らないと何かしらの不具合が起きてしまうのではないか。そういった視点をしっかり持って、このセンターで評価しています。


●開発から使い方の注意点までを、企業とともに考える


村田 ここはリハビリテーションセンターなので、医師はもちろん、リハビリの専門職種である理学療法士や作業療法士もいる。義足などのスペシャリストである義肢装具士もいる。多様な職種の集まるセンターです。

 私どもは、先ほど言ったような実証実験として、県から「評価してほしい」あるいは「相談に乗ってほしい」と言われたロボットを受け入れる窓口になります。このロボットなら、どの専門分野に評価してもらうのがいいか、もしくはメンバーとして入ってもらって一緒に評価してもらえばいいかを考える。そのように、県から来た実証実験のロボットを病院の中でコーディネートし、県や企業へのフィードバックまでを受け持っています。

 ロボットの中には開発段階のものもあれば、すでに完成されたものも来ています。開発段階のものであれば、これからどういうところを目指していくかについてもアドバイスしますし、完成されたものであれば、その使い方や注意事項などを企業と一緒に検討していくわけです。

谷口 それは「共創」ということですね。われわれ経営学には「競争」をターゲットとした戦略論という分野があり、企業同士がいかにライバルを蹴落として競争に勝つかを考えます。ところが時代が変わってきて、神奈川県もそうですが、さがみロボット産業特区も「オープンイノベーション」ということを言っており、いろいろな業種が組織の垣根を越えて協働しています。こちらを経営学では「共創」(co-creation)と呼んでいます。この病院はまさに「共創」の中心的な役割を果たされているのだとよく分かりました。


●ロボット産業特区1期から2期への変化


谷口 ちなみに、さがみロボット産業特区は、2013年から2018年が第1期で、今ちょうど2018年から2023年の2期目に入っているわけですよね。何かそのなかで、役割などが変わってきたりはされていないですか。

村田 今のところ、特に役割の変化については聞いていません。ただ、私が感じているところとして、これまでは「ロボットの評価」というテーマが多かった。仮想ターゲットを決めてつくってきたけれども、試すところのなかった企業が持ち込んでくる。当院にその対象となる方がいれば、試して評価してもらいたいというケースが多かったのです。2期目に入ったことと重なるかどうかは分からないですが、今は「その次にどうするか」が求められているのかもしれないと感じます。

 もちろん1期目の初期から当院で評価しているものもあります。それらは、企業としてはもう2、3年も当院に置いているわけですから、爆発的に売れているものがあるかというと、なかなか難しい状況です。そうなると、やはり次は、それをどう展開していくかということが差し迫ったテーマになっています。

 そのために、たとえば医療の分野であれば、患者さんに試してもらうことで、それを実験データとして蓄積し、エビデンスとして論文を学会に投稿することで情報発信する。そうすることで、「こういう効果があるなら使ってみよう」と他の医療機関が思われるといった展開の仕方もありますが、企業単独では難しい。医療の分野で広めていくのであれば、そのための方法についても、病院としてサポートしていかないといけません。

 企業としては、それだけではなく販路等の展開もあると思うのですが、そこが若干行き詰まっている印象は受けます。その辺りが今の課題として感じられるところです。
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